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バイオリンのネック上げ【ネックリセット】ってどんな修理?必要な場合と方法について

演奏イメージ

この記事ではネックを取り外して角度をつけなおす”ネック上げ”という修理方法について、それが必要なケースと方法などについて解説します。

バイオリンに対して行う施術を修理と調整に分けた場合、ネック上げ【ネックリセット】は修理と呼べます。修理の程度に大小をつける必要はありませんが、駒や魂柱交換などの修理に比べると大掛かりな修理であります。しかし、知っていただきたいのはごく一般的な修理の一つであり、表板割れなどのようにある程度の緊急性があるものとはことなりますので、それほど深刻に考えずに見ていただければと思います。

故障や不具合によって必要な場合や楽器の健康状態をよくするためなど様々な要因が考えられますが、どのような楽器にも必要になる可能性のある修理の一つではありますので、詳しく知っておくことでお客様ご自身の楽器と向き合うきっかけにしていただければ幸いです。

目次

ネック上げ【ネックリセット】ってどんな修理?

ネックリセットの図式

ネック上げ【ネックリセット】とはその名の通り、ネックの角度を上げる修理(ネックの状態をリセット)のことを言います。
写真のようにネックの角度が低くなった楽器からネックを取り外し、新たに角度をつけなおして取り付けます。
言葉で書くと非常にシンプルですが、実際は足りなくなった分の木材の接着やネック長さ、向きなどの調整も伴います。

ネック上げ修理を行う上での、、
【メリット】
①ネックの角度が上がることで相対的に駒の高さも高くなります。弦の長さが長くなることで張りが強くなり、弓で弾く際のレスポンスの向上と音量のアップが期待できます。
②ネックの長さ、向き、ねじれなどがある場合にそれを解消することで演奏性の向上が考えられます。
【デメリット】
①楽器の発音の仕方やネックの形状は個人個人の好みがあります。慣れもありますので必ず良い結果を生むとは言い切れない場合もあります。

ネック上げ【ネックリセット】が必要な場合ってどんな時?

ここではケース別にネック上げが必要な状態と理由について解説していきます。
数値などの見方は経験のある方でないとわからないことがあるとは思いますが、まずはご自身の楽器を観察してみましょう!

落としたりぶつけたりして破損した場合

楽器落とした時

これはもう細かい説明は必要ありませんが、衝撃によってネックが外れるもしくは折れるなどした場合です。
ネックは膠(にかわ)によって本体のほぞにハマって接着されており、釘などで固定されてはいないため、外れることがあります。
ネックがボタンなどを残してきれいにすぽっと外れた場合、ネック上げ修理によってもとの状態に戻すことができます。またネックの根元の部分が木目に沿って割れた場合なども新しい木材を足すことできれいに戻すことができます。

ネックが折れてしまった場合は補強材をネックの内部に入れることで接着できる可能性もありますが、基本的には強度的にもたないため継ネックとよばれる別の修理が必要となります。

自然にネックが外れた場合

膠(にかわ)は天然のたんぱく質接着剤のため、年月がたつと劣化していきます。
弦によって常に引っ張られている状態のネックは接着剤が弱まると自然に外れることがまれにあります。
突然すべて外れるということ可能性もありますが、大体少しずつはがれていくことが多いため、ネックがずれてニスのついていない木の部分が露出してきたり、弦とネックとの距離が離れすぎたり近すぎたりして様子がおかしい。
ボタンと呼ばれる裏板との接着部分がはがれているなどした場合は要注意です。

ネックの角度が下がってきている場合

前述のとおりネックには弦の張力がかかっている状態です。
木材は変形などしてネックの角度が下がる場合があります。これ自体は自然なことなので必要以上に心配する必要はありません。
ネックが数か月の間に極端に下がることは通常ありません。何年か楽器を使っていると一生のうちに1回か2回、この修理を行うことがあるかもしれません。

ネックのプロジェクション(角度)が低くなると弦と指板の間が広くなっていきますので駒を削って調整を行います。
ネックの角度が低くなりすぎると駒をこれ以上は削れないということがあります。また弓が本体と近づいていくので、角やC字のフチに毛が当たってしまうといったことが起こります。

ネック上げ【ネックリセット】の方法について

ネック状態確認

まずはネックの状態の確認です。今回参考となる写真の楽器は自然にネックの角度が下がった状態でした。
お客様の楽器に関して確認する項目はネックの長さ、向き、ねじれや太さ・幅などについてです。理想の数値とお客様の演奏の癖や好みを比較して目指すべき形状をきめていきます。
例えば、長さは本体のフチからナットの端までで130mmが理想とされています。(4/4サイズのとき)まれに短いものなどありますが、大幅に変更するとポジションの位置がずれてしまうため、感覚的に違和感が出ることがあります。また手の大きさを考慮して太さを調整したりすることも大事です。

ネックを本体から外す

本体のネックほぞ

ネックの底面にのこいれ

写真の色分けした部分。青色の側面、赤色の背面、緑色の底面の3面でネックは接着されています。
底面の上と側面に薄いのこぎりで切れ込みを入れ、へらなどを用いてネックを外していきます。

本体やネックに新しい木材を接着する

ネックの底部に木材接着

本体に木材接着

バックピース接着

ネックの底面はのこぎりで切ってしまっており、角度をつけるためにも新しい木材を接着します。接着した部分の大きさは楽器の状態によって異なります、木目や杢の向きを合わせてなるべくオリジナルと同じになるように工夫します。
本体の方にも新しい木材を接着します。横板はメープル、背面と表板の部分はスプルースを用いて、もともとの木材と同じ材質で木を足します。

ネックの長さを延長するために”バックピース”と呼ばれる木材を背面に接着することもあります。(ほかにサイドピースもあります。)

ほぞを削ってネックを接着します。

ネックを接着する様子

ほぞはネックよりも若干きつくしておき、ネックを押し込みながら接着することで木材のふくらみと摩擦を利用してネックが外れづらくなるようにしています。
この時にネックの値がさ、角度や向きなどを考慮して正確に削っていきます。

最後にニスを補修

ナイフなどを使って形状を整えたのち、下地、色ニスの順番に色を合わせていきます。
写真を見るとわかりますが、新しく足した木材は年代も性質も違うために全くわからなくするということは難しいです。
様々な手法を駆使してオリジナルとなじむように色を調整していきます。

最後に

ネック上げの修理は駒や指板の調整を含む複合修理です。専門的な話もあるため、難しいと思うこともあるかもしれませんが当店でもきちんと状態を見極め、双方納得する形での修理を目指しています。
点検・見積は無料ですので、楽器の状態をチェックするためにも1年に一回は専門店にお持ちください。

皆さまのご来店をお待ちしております。

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下川バイオリン工房

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