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バイオリンの弓毛についてのお話



 

目次

なぜ擦弦楽器は弓に毛を張っているのか

楽弓

擦弦(さつげん)楽器というものがどの時代にどのように発明されたのかは歴史上わかっていない部分も多く、また話が長くなるため今回は省略したいと思います。
擦弦楽器はその名の通り弦をこすることで摩擦によって弦を振動させ音を出す楽器のことを指します。
張ってある弦が振動すればどのような方法でもよいため、撥弦(はつげん)楽器のようにはじいたり、叩いたりしても音は出ます。

バイオリンに使用される弓のことを正式に『楽弓』と呼んでいますが、昔はこの弓自体が楽器だったのではと考えられることがあります。弓状に曲げた木の棒につる(弦)を張り、木の棒でこすって音を出したのです。(棒に松脂をぬったりします)

こすって音を出すという構造上、撥弦楽器のように音の残響が少なく、連続した細かい音が出続けることにより一つの音としてきれいに聞こえるように出来ています。
安定した音を出し続ける(安定して弦を振動し続ける)ために弦に一定の力で当てやすく、摩擦の強いものが理想と考えられ、柔軟で軽く長い毛を用いるようになりました。また摩擦力を向上させるために松脂を塗りますが、毛の内部に松脂が溶け込み馴染も良いのです。

なぜ馬のしっぽの毛?

弓の種類にもよりますが最も長い楽弓は大人用のフルサイズ(4/4)バイオリンデス。その全長は73~74.5cmほどです。
弓毛の弦に外に見えている部分の長さは64~65cmほどで弓内部の固定されている部分までの長さや毛替えの作業上必要で後々切ってしまう部分なども含めると75cmくらいの毛が必要になります。

ある程度の量の長い毛を採ることができ、毛質が太く丈夫な馬の毛が最適なのです。そもそもこの長さの毛が生えている動物が地上にあまりいないためということもあります。人間の髪の毛でも不可能ではありませんが細いために強度が足りないのです。

弓毛による弦の音の出る仕組み

弓の毛で弦をこすることによって弦が細かく振動します。倍音による微細な振動をした状態のまま弦は円運動をします。
弓によって横向きにこすってはいますが実際は複雑な動きとなっています。

この振動を楽器の”駒”が縦の振動に変換し、また余分な雑振動を吸収して表板に伝えてくれます。表板の振動や魂柱を伝った裏板の振動は本体の共鳴胴で増幅して皆さんの耳に届きます

なぜ弓に松脂をつけるのか?

松脂

松脂はマツ科の植物から分泌される樹脂です。松脂は粘性があり、細かい粒子の塊であるため、弓毛に塗ることによって弦との摩擦を高めてくれます。
また摩擦熱によって溶けて毛にしみ込み冷えて固まることで安定します。塗りたての時は音が出にくいのはこのためです。しっかりと弾きこみましょう。

松脂は空気中の水分や汚れを吸着してしまうため、弓毛もそうですがいずれは交換が必要です。
松脂は基本的にはあまり劣化しませんが一応賞味期限はあります。松脂に含まれるオイル成分が経年で徐々に少なくなります。粘性が失われていくため、塗りにくく割れやすくなります。

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