BLOGWorkshop note 工房手記

ブログ

バイオリン裏板に現れる綺麗な模様”杢(モク)”の正体とは?



こんにちわ皆さん。下川バイオリン工房です!

この記事ではバイオリンの裏板、横板、ネックに使用されている”メープル”の表面に現れる模様”杢(モク)”について説明します。

バイオリンを始めとする弦楽器の美観に大きく影響し、美しい杢のあるメープルは昔から高級材とされてきました。

楽器の製作やメンテナンス、音響上にどのような影響を及ぼすかについても考えていきたいと思います。

目次

杢(モク)の正体とは? 杢模様はどうして現れる?

弦楽器に使用されるメープルの裏板には木目(年輪など)と以外に杢と呼ばれる独特の模様が見られます。
木目が通っている方向と直角方向に生じる線状や波状の模様(現象)のことを指します。

木材の繊維のうねりによって日光などの光が木材内部を透過した際に光の反射率が異なるために起こります。木材内部に色がついているわけではありません。

そのため、木材の経年変化によって失われることはなく、削ったとしても見え方が変わることはあれど失われることはありません。

杢(モク)の種類について

写真は材料をはぎ合わせたばかりの状態です。製材や塗装を行っていませんがしっかりとした杢模様が確認できます。

バイオリンの裏板はその木取りや接ぎ方(ブックマッチ)、加工方向の関係で基本的には写真のような虎杢と呼ばれる線状にいくつも細かく並んだ模様が見られるのが一般的です。(裏板の製作法についてはリンクを参照ください)
”一枚甲”と呼ばれる中心ではぎ合わせない一枚の単板材を使用して製作する場合に年輪の方向によっては鳥眼杢(バーズアイ)のような丸い杢模様があらわれることがあります。※写真二枚目 ※写真は下部のリンク『一枚板比較』様より引用させていただきました。

木材乾燥時に雨風などにさらされることで菌が繁殖し、汚れやシミができることがあります。この状態を”スポルテッド杢目”と言います。楓材(カエデ)や栃材(トチ)などに多く見られます。※写真三枚目 ※写真は下部のリンク『一枚板比較』様より引用させていただきました。

杢模様は楽器にどのような影響を及ぼすのか?

バイオリン製作・修理の観点からこのことについて考えると杢模様が細かく、深い(色がの差が濃い)ということはより繊維のうねりがおおきいことを意味します。切削加工においては繊維にそって刃を入れたり、曲げを入れたりするのが基本ではありますが、これらが難しくなったり強度が弱くなる原因となります。具体的には繊維にそって表面がめくれてしまう・横板を曲げる際に均一に曲がらなかったり折れたりするといったことです。直角方向の力に対する強度が弱いのです。
それらのことからあえて杢の浅い木材を好んで使用する製作家も存在します。

音響的な観点からみてみるとバイオリンは振動を増幅・拡大する響板の役割を果たす”表板”その振動を伝える”横板・魂柱”、楽器全体の振動を支える”裏板”という構造になっています。そのため音の良しあしに対しての裏板の杢模様の影響はそれほど大きくないと考えられます。

美術的な観点から見るとき、杢模様は最も重要な要素のひとつとなります。杢が深いメープル材が良材・高級材とされるのはやはりその美観あってのことです。美しい模様が現れた楽器は価値が高く、大事に扱われていくため、結果的に音響性能が上がっていくこととなるでしょう。

最後に

私自身は杢模様があまり深すぎないものを選んでいます。模様が無い材料を”素杢”と呼ぶことがありますが、これはさすがに味気ないとは思っています。ただ個人的にはあまり杢模様が濃すぎて表面がギラギラしているものが品がいいようには思えない為、あえて控えめに杢が見える物を選んでいます。自身が作る楽器が割とフラットなアーチであるためその方が合う気がするのもあるかもしれません。

裏板には栃の木やポプラなどが使用されることがありますが、今回取り上げた杢はこのようなメープル以外の広葉樹にも表れます。皆さんも多くオールドの楽器を見る機会があった時には杢模様やなんの材料なのかなどに注目してみるのはいかがでしょうか🙋

SHAREシェアする

ブログ一覧

HOME > BLOG > バイオリン裏板に現れる綺麗な模様”杢(モク)”の正体とは?

〒120-0002
東京都足立区中川1丁目14-7

© 2020 下川バイオリン工房