バイオリンの表板割れ補強の内の一つ『魂柱パッチ』とは?

こんにちわ!下川バイオリン工房です。この記事では『魂柱パッチ』の技法について紹介していきます。
表板のどこかが割れた場合、その部位によって接着後の補強の仕方は変わってきます。魂柱や駒によって内外から大きな圧力を受ける魂柱部分では単に接着しただけでは強度が足りず、接着をおこなった部位が再度開いてしまうことがあります。バイオリン修理業界では木板の表面を彫ったり、削ったりしてから新しい木を接着(埋め込む・貼る など)する修理方法を”パッチ修理”と呼んでいます。その中でも魂柱部位に行うものを”魂柱パッチ”と呼びます。
目次
- ○ なぜ”魂柱パッチ”を行うの?
- ○ ”魂柱パッチ”の方法
- ・下準備
- ・当て型製作
- ・パッチ接着部分の調整と接着面の合わせ
- ・パッチ材の接着
- ○ 最後に
なぜ”魂柱パッチ”を行うの?



表板の魂柱部分は表側には駒の圧力(弦のテンションによるもの)がかかっており、内側には魂柱がそれをささえるために立っています。
楽器の中でもっとも力がかかっているこの部位では魂柱が短すぎたり、長すぎたりする場合や魂柱位置と駒位置とのバランス、乾燥やぶつける・挟むなどの外部からの衝撃によって魂柱部分を中心に上下に割れる(裂ける)ことがあります。
ニカワの接着だけでは強度が足りないが、魂柱をセットする関係で表面に出っ張るような木片を貼るのは好ましくありません。
そこで行うのが、古い木板を削ってクレーター状のポケットを作り、そこにぴったりと合うような新しい木を接着する修理です。
クラック部位の大半は全く割れのない木材に置き換えられ、強度的に問題のない魂柱の土台が出来上がります。また、板の厚みが変わることはなく、表面上も割れの線以外に目立ったものはありません。
※なお表板限定の修理ではありません。裏板に行われる場合もあります。(その場合はメープルを使用します)
”魂柱パッチ”の方法
下準備





表板の表側、裏側から割れの位置や長さを確認します。また魂柱が立つ位置などを確認して魂柱パッチの大きさや位置を決定します。割れが長い場合にはパッチ以外にもスタッズを貼って補強する必要があります。※おおよそ3~4cm角くらい
接着を行う木材を選びます。なるべく木目が細かいものが強度的におすすめです。楽器表面に行う修理と違って見えないため、木肌の色や年輪の幅などを細かくあわせる必要はありません。
接着部位の木目に対して、接着する木目は年輪幅一本分ほど傾けてずらします。これは全く同じ木目方向に接着するとクラック部分の割れが開いてしまった際につながってパッチも割れてしまうのを防ぐためです。
当て型製作










接着の際に表板の表側に当てる型を作製します。これを当てずに接着すると表のアーチが変形したり割れたりするため必須です。
形状に合わせてピッタリと合い、圧力を支えるためには強度があり、形状を自由にできる素材である必要があります。伝統的には石膏の型を使用します。私は写真1、2枚目にある”デンタルコンパウンド”というものを使用しています。模型用の型取り樹脂です。工夫すれば砂袋でもできると思います。
※お湯でやわらかくなるプラスチック粘度は強度が足りない為使用をお勧めしません。
※石膏型はかなり精密な型が取れますが、熱が発生する、石膏水を保持する枠が必要、固まるのに時間がかかるなどのデメリットもあります。
写真3、4枚目のようにYシャツのような繊維の細かい布を用意します。デンタルコンパウンドは柔らかくなるとなんにでもベッタリと張り付きますので、布にベビーオイルを染み込ませておきます。写真5枚目のように湯煎で温めます。
写真6、7,8,9枚目のように表板にラップをかぶせて保護します。魂柱部位にコンパウンドを乗せ、反対側に手を添え、土台となる板でプレスして押し広げます。表板のフチやF孔などにかぶるようにしてください。(型に特徴がないと後で同じ位置にセットできません)
パッチ接着部分の調整と接着面の合わせ








パッチ接着部位の中心の厚みを測っておきます。2.8~3.0mmほどであれば大丈夫です。2.3~2.5mmほどしかない場合には修理完了後の厚みは少し厚くした方がいいです。
ノミや豆カンナを使用して彫っていきます。左右対称で丸く滑らかに彫ります。限りなく完成に近くなったらスクレーパーや紙やすりを使用して表面を仕上げます。ここで手を抜くと後の合わせの際にかなり苦労します(というよりできないこともあります。)スケールの影で確認しましょう。削った後の厚みは元の厚みの1/2~1/3くらいを目指します。その後パッチ材を当てて回りにガイドとなる小木片を接着します。
パッチ材も適当にノミなどでざっくりと合わせます。くぼみにチョークを塗り、パッチ材を少しぐりぐりと押し当てます。チョークが移りますのでそれを削ります。写真6枚目は中央にチョークがついていない為、その部分はまだ接着面についていないということです。パッチ全体にチョークがつくまで繰り返します。
当てたときに外側からも隙間が見えなければ完成です。
パッチ材の接着








当て型をクランプで表板に固定します。位置を正確に合わせてください。クランプする位置は必ずコンパウンドがついてる部分にしてください。土台板と表板の間に空間があると板に圧力がかかって割れます。
チョークの粉は水でふき取ります。水に不溶性であるため、2、3回にわたって入念にふき取ってください。
ニカワで接着します。軽く表面を温めますがやりすぎに注意が必要です。Fクランプでパッチを抑えますが、当て型があるとはいえあまり強く締めすぎないでください。圧迫割れを起こします。
乾燥後に削って整えます。厚みを増す場合には山なりにしないでください。魂柱をセットしづらくなります。表面が皮一枚出っ張っているような仕上がりにします。
最後に
魂柱パッチによって楽器の価値が下がることはありません。
むしろ割れがあるのに補強を行っていない楽器は演奏に適しません。適切な修理によって楽器はまた新たな価値を与えられます。
オープンを伴う大きな修理ですが、ほっておくと重大な故障を招く恐れがあるため、まずは魂柱部分に割れが発生した場合や割れのある楽器の購入を検討している場合は専門店に相談しましょう。🙆
