バイオリンの継ネック【ネックグラフト】ってどんな修理?必要な場合と方法について
継ネック【ネックグラフト】は聞きなれない言葉だと思いますが、バイオリン修理においては古くからおこなわれてきた技法のひとつです。
この修理法が行われる理由は様々ですが、ご自身でオールドバイオリンを所有している方や販売店でご覧になった際にはその修理を確認できることがあります。
簡単に言えばネックを”継ぐ”ということで、つまり本体とネックの先端のボックス、スクロールを残してその間の木材を全く新しい木材に挿げ替えてしまう修理のことです。
この記事ではこの修理が必要な場合と、その方法についてお話します。頻繁に行うような修理ではありませんので、大半の方には該当しませんが、皆さんには知識として楽しんでいただければと思います。
目次
- ○ 継ネック【ネックグラフト】ってどんな修理?
- ○ 継ネック【ネックグラフト】が必要な場合
- ・落としたりぶつけたりして破損した場合
- ・ネックの形状に問題がある場合
- ・バロックバイオリンの改良を行う場合
- ○ 継ネック【ネックグラフト】の方法について
- ・ネックをカットする
- ・ペグボックス側を加工する
- ・新しい木材(棹の部分)を加工する
- ・二つの部材を接着してひとつにする
- ・仕上げ加工を行う
- ○ 最後に
継ネック【ネックグラフト】ってどんな修理?
画像の青い部分の木材をすべて新しい木材に交換します。
ネックをまるまるすべて作り変えるという修理もありますが、通常スクロールに何も問題が起こっていない場合、オリジナルのデザインをできる限り残したいため、先を切り取って残しておき、そこにあたらしい木を接着して復元します。
この時、木目の向きや方向、広さや杢の模様などを合わせることがあり、交換する木材は選定して行います。
継ネック【ネックグラフト】が必要な場合
継ネックが必要なパターンは主に以下の3つです。
3つ目については修理とは考え方が異なります。
落としたりぶつけたりして破損した場合
画像のようにペグボックスの付け根部分、ネックの棹の部分、表板に近い位置のネック根元の割れなどの部分が折れたり、割れたりした場合が考えられます。
この時、単純な接着だけでは弦に引っ張られた際の強度が持たない可能性があるため、継ネックを選択肢として選ぶことになります。
このような破損はいずれもかなりの衝撃や負荷がなければ起こらないため、ネック以外にも別の故障が起こっていないか入念にチェックする必要があります。
ネックの形状に問題がある場合
写真一枚目のようにネック上げ修理などを行ったために裏板のボタンが小さくなってしまっている場合です。見た目が悪くなるのと接着面積が狭くなっていることから継ネックを行い、その際にエボニークラウンなどの修理を施します。
写真二枚目三枚目はネックの幅が狭すぎる、厚みが薄すぎる場合にも同様に行います。実際、弾きにくいかどうかは演奏者次第ですので、必ずしもこのような状態が悪いとは言い切れません。
またネックが長すぎる場合、棹を縮めるということはできないため、修理が必要になります。
バロックバイオリンの改良を行う場合
バロック時代(1600年~1750年)頃に製作されたバロック・バイオリンではネックが本体と平行に取り付けられていました。
そのため、現代の演奏スタイルに合わせてモダン・バイオリンの形に修正する際にこの継ネックの技法を用いています。
継ネック【ネックグラフト】の方法について
ネックをカットする
まずネックを切ります。衝撃的な絵ですが、不要な部分を切っておくことでその後の作業がスムーズに行えます。
本体に残った木材はきれいに取り除き、ネック上げの修理と同様に足りなくなった木材を足しておきます。
ペグボックス側を加工する
ペグボックス内を写真のように底面、側面を加工します。奥に向かって狭くなるようにすべて正確な平面に削ります。
削る量は楽器の状態や目指す寸法によって変わります。
この加工の際に接着のための型をとっておきます。接着の際にクランプの圧力を全体に分散し、きれいに接着が行えるよう左右と底をすべて囲むように型取りします。(今回は100均で売っているおゆまるくんというプラスチック粘土を使用しています。)
新しい木材(棹の部分)を加工する
先細りにすることでペグボックス側にすっぽりとはまるように加工します。
ボックスとネック材の角度、向き、ねじれ、長さを考慮して西洋がんなを使ってきれいな平面を削っていきます。
二つの部材を接着してひとつにする
二つの部材の接着が完了しました。
底面と左右の側面がきれいに接着されたことにより、接着強度を確保し簡単には外れない状態になっています。
仕上げ加工を行う
ボックスの内部や側面、指が当たる首の部分をキレイに形作ります。上から見ると斜めに内側に向かって接着面が見えています。
古い楽器で同様の修理が行われている楽器はこのオリジナルとあたらしい木との接着面が確認できるので、観察してみてください。
加工が終わったのち、木材の下地の処理やニス塗を行って完成です。(完成の写真が今回ないため別の機会にアップします。)
最後に
ネックはバイオリンの演奏性を決めるとても大事なパーツです。皆さんもご自身の楽器を注意深く観察してみるとちょっとした問題点や面白い発見が見つかるかもしれません。
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