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バイオリンのチューニングの秘密兵器”ギアペグ”とは



皆さんこんにちわ!下川バイオリン工房です。

この記事では通称”ギアペグ”と呼ばれる商品について、その正体に迫っていきたいと思います。

メリット・デメリットや交換方法、使用方法などについてお話します。

目次

『ギアペグ』とは?

ペグ内部にギアが内臓された機械式のペグ(プラスチック製)です。
このことから通称”ギアペグ”と呼ばれています。

正式な商品名は”ファインチューナー(Fine tune)”と言います。
1800年代の終わりからメトロノームの製造を行ってきたことで知られるドイツの老舗メーカー”ウィットナー社(WITTNER)”が開発した製品です。
バイオリン関連の商品としては他にもテールピースやアジャスターなども製造しています。

ギアペグ(ファインチューナー)使用のメリット・デメリット

メリット

➀ギアが内臓されているためチューニングに力がいらない
 ⇒かみ合ったギアが常に弦の張力に対して抵抗となるために、巻き戻ることがなく、チューニングにほとんど力がいりません。

②ギアによって手元の力が変換され精密な調整が可能
 ⇒ペグの丸い部分を回転させると内部でギアが連動し、弦巻き取り部分が回転します。この時に手元の回転よりもより大きな回転に変換されるために通常の終ペグでは到底できないような微妙な弦テンションの調整が可能です。 ※アジャスターが必要なくなります。

③季節の変化や木部の摩耗などの影響を受けない
 ⇒筒状のプラスチックソケットの内側をギアが回転するためにバイオリンのペグボックス(木部)と接した部分はチューニングの際に全く動きません。季節の変動による乾燥や湿気でペグが緩んだりきつくなったりせず、年中一定の回し心地で使用できます。また、気が摩耗しないので調整なしで長い期間使用できます。

デメリット

➀見た目に違和感がある
 ⇒表面はすべてプラスチックでできているため、従来の木製ペグに比べるとどうしても違和感があり、バイオリンパーツの中で浮いてしまう。かつて廉価製品の中にはプラスチック製ペグが使用されている楽器があったために安物とみられてしまう。

②通常の木製ペグよりやや高い
 ⇒市場に出回っている安いものから中品質くらいまでのペグよりも価格がやや高いです。しかし機能を考えれば割安であるようにも思えます。

③取付できる店舗を探す必要がある
 ⇒通常のペグとはやや異なる方法で取付・調整を行うために取り扱っていない店舗(ノウハウをもっていない店舗)もある。

ギアペグ(ファインチューナー)の取付方法

加工前の準備

もともとついていた木製ペグを外します。

現状バイオリン用のファインチューナーは棒部分の一番太いところで直径7.8mmと直径8.6mmの2タイプのみ存在します。
元のペグの太さに合わせてそれよりやや太いものを選びますが、元のペグが8.7mm以上の太さであった場合には穴を一度埋める作業が必要となります。

※穴埋め(ブッシング)修理については以下のリンクをご参照ください。

ギアペグに合わせて穴を広げる

通常のペグ交換と同様に”リーマー”(写真二枚目)を使用して穴を広げていきます。
どこまで広げるかは数値では測れないため、実際に穴にペグを入れてみながら調節します。

ギアペグは棒部分にかみ合わせを強くするための爪のようなものがあるため、軽く入れた状態から手でぐっと押し込むと1~2mmくらい中に入ります。
しっかりと奥まで押し込んで使用しますのでこの入り込みを考慮する必要があります。

ギアの継ぎ目部分は引っ張られる力に弱いため、ギアペグを取り外す際は手で持って引っ張るのではなく、逆側から細い棒などで押して抜き取ります。

最終的な位置は写真六枚目くらいです。写真内の赤枠内しか回転しない構造のためこの位置をどこに持ってくるかによって弦の巻き取り位置が変わります。
ペグが出ている長さを長くした方が見た目がいいためと、赤枠より先端にギアが内部に存在するため、あまり先端を多くカットしたくないのが理由となります。

ペグ先端の余りをカットする

ペグを4本すべて理想の位置まで入れたら、反対側から飛び出ている部分をカットします。
写真二枚目の説明の通り、弦が巻き取られる稼動部位(少し細くなっているところ)から先端に向かって4mmはギアが内臓してあるため切ることができません。
この4mmを考慮して6~7mmくらいの位置をカットすることになります。(ペグボックスに合わせてぴったりに切ります)

ペグボックスは通常壁の厚みが4~4.5mmくらいにしてあるので、稼動部位がボックス内に収まっていれば誤ってギアを傷つけてしまうなどということは起こりえません。
先端は紙やすりなどで磨いて滑らかにしますが、プラスチックなのでピカピカにはできません。

弦を巻き付ける

ペグには穴が二つ付けられております(E・A線側とD・G線側どちらに付けても左右反転に対応できるように)
手前側に近い弦を通します。逆側の穴に弦を入れると巻き始めに弦が折れ曲がるような形となり、弦に痛む原因になります。

ペグ側とは逆に一巻きします。その一巻きをまたぐようにしてペグ側に巻きます。(弦がテンションによって抜けないためです)
後はぐるぐると順番に巻いていきます。ギアによってペグの巻き戻りが防がれるので通常のペグのように壁際に弦を寄せて巻く必要はないです。またギアのために巻き取るためには通常のペグよりも多く巻く必要があります。

商品ラインナップについて

現在、商品としては次の7種類があります。
【バイオリン】
1/2~1/4サイズ用 太さ7.2mm 1:30テーパー
3/4~4/4サイズ用 太さ7.8mm 1:30テーパー
3/4~4/4サイズ用 太さ8.6mm 1:30テーパー

【ビオラ】
フリーサイズ 太さ8.6mm 1:30テーパー
フリーサイズ 太さ9.2mm 1:30テーパー

【チェロ】
7/8~4/4サイズ用 太さ12.5mm 1:25テーパー
7/8~4/4サイズ用 太さ14.0mm 1:25テーパー
7/8~4/4サイズ用 太さ15.5mm 1:25テーパー

90年代の量産楽器ではペグを1:20のテーパーに設定してあるものが多いため、それらは1:30テーパーに削り直す必要があります。またその際に穴埋めが必要かも判断します。(1:30テーパーとは30mmの長さに対して1mm細くなる円錐を表します。)

コントラバス用はペグマシンがあるためにギアペグは存在しません。(あったらあったでかっこいい気もしますが😅)
⇒以前は分数バイオリン用、ビオラ用はなかったですが、現在は開発されたようです。

チェロは弦のテンションがとても高いために巻き取るのが大変であるため、チューニングが怖い場合やペグの調子が悪くて巻き戻るのがストレスな方にはお勧めいたします。

小話

ストラディヴァリの名器、通称「レッド・メンデルスゾーン」にギアペグが装着されているという話があります。
この楽器は1720年にストラディヴァリが製作し、あのメンデルスゾーンが使用していたことや、映画「The Red Violin」のモデルとなっていることで有名です。

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