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チェロ用駒アジャスターとは?



下川バイオリン工房です。

今回はチェロ用”駒アジャスター”のお話。”駒アジャスター(bridge adjusters)”という名前は”バイオリン・ビオラ・チェロ弾きの方にとってはあまり聞きなじみのない言葉だと思います。ことアジャスターというとテールピースに装着する高弦をチューニングするためのネジをイメージするのではないでしょうか。

コントラバスにおいては駒アジャスターはごく一般的なパーツで機構もさまざま、材質も真鍮・アルミ・樹脂・黒檀など様々です。またピックアップを内臓した高性能なものも存在します。

この記事ではめずらしいチェロ用の”駒アジャスター”についてご紹介します。なおご説明は取付サービスに関してのものです。当店では部品自体の販売・仕入れは行っていないためあらかじめご了承ください。

目次

駒アジャスターとはどういうもの?

”駒アジャスター”とは駒の”高さを調節”するためのパーツです。
バイオリン属の楽器やコントラバスは一年の内に湿度の変化によって弦高が変わります。

写真3枚目のように夏場は高い空気中の湿気を木材が吸収して全体が膨張します。しかしブロックに固定された横板はそれほど変化しないために一部の力は再び内部へと還っていきます。
行き場をなくした膨張力は表板のアーチを押し広げる形で上へと流れます。結果的に表板に乗っている駒は押し上げられ、それに架かる弦も持ち上がるという構造になります。(もちろんネックなども変化しますのでこれが原因のすべてではないと思います。)

バイオリンでは変化量がごく僅かすぎて大半の方は気づかないと思います。それがコントラバスとなると数mmの変化であるために演奏に大きな影響を及ぼします。
この問題を解決するために駒自体の高さを変えようと思いついたのがこの”駒アジャスター”という仕組みです。

駒の足内部にネジを組み込み、それを動かすことで高さを調節します。

チェロ用駒アジャスターとは

チェロ用の駒アジャスター本体は駒のような形状をしており、シャフトの下部にネジ山が切ってあります。
コントラバス駒アジャスターの中には駒足の木に直接ネジ山を作りネジをはめ込むものがありますが、チェロは駒の足が細いということやネジ山が細かすぎるためにネジの受けとなる埋め込みナットが存在します。またシャフト丈夫にも受けとなる金属製のスペーサーのようなものがつき、全部で3パーツの構成となります。

取付方法

駒足のカット

まずパーツのサイズを測り駒足に対してどの程度埋め込まれるのかを確認します。
あまり下すぎると回しずらく、上すぎると強度が不安になってきます。ちょうど真ん中くらいが良いかもしれません。

駒を平らな板に固定し、正面から見て中心をアジャスターシャフトが通るように線を引きます。
駒足の端から垂直に線を引き、同じ高さとなる位置に横線を引きます。

その後、ノコギリで足をカットします。

足をカットする幅について

現在の弦高を測ります。そして目標となる弦高を設定し、その差分を計算します。

画像2枚目より ➀アジャスター厚み ➁高さを下げるための余分 ➂足合わせで削る分 (必要なら駒アーチ削る分も)を加味して切る幅を計算します。

穴あけ位置をマークする

千枚通しなどを使用して穴あけ位置をマークします。
ちょうど中心になるように設定するのが良いです。

穴をあける

チェロの足首の幅が9~10mm、厚みにして11~12mmほどしかないのに対して埋め込みナットの太さが7mmもあるため、より正確な穴あけが必要となります。

最初に引いたガイドの垂直線をもとに台座にセットし、固定してボール盤で穴を開けます。
この時に必ず2~3mmほどの小さなドリル(できれば木工用)で始めてください。※太いと圧力で割れます。
3mm⇒5mm⇒7mmというように広げていきます。

スペーサー側は6mmなので3mm⇒6mmで大丈夫です。
深さを固定できるビットストッパーなどを使用して正確に削ります。また深さはそれぞれの部品の長さよりやや深く(0.5mmほど)してください。

部品を穴に入れ込む

ハンマーで叩くと割れますので指で押してゆっくりと入れていきます。
必要に応じてパーツを削ったり穴の内部を薄く削ったり、ろうそくを塗るなどしてください。多少ゆるくても内部でナットごと回ってしまうことはほぼありません。

その後、アジャスター本体を取付します。駒足とかみ合わないことが大半のため、木を削って合わせましょう(0.5mm余分にでているはずですので)

足合わせ+弦高調整

アジャスターの取付によって駒足はアジャスターを隔てて上と下で若干角度が変わることがあります。
必ず足合わせを行いましょう。その際には足が回らないように割りばしなどを裏に当てて輪ゴムなどで固定する必要があります。

その後は、通常通りに弦高調整を行います。

そして完成です🙋

終わりに

コントラバスの場合には弦の圧力が強く、駒に対するアジャスターの重さの割合が少ないために音質への影響はわりと少ないように感じています。
チェロに関してはやや音質が固くサステインが伸びなくなったように感じましたが、弦高(弦のテンション)が変わっているために今回は正確な検証は難しいです。

チェロも湿度によって弦高が変わりますが、変化量が少ないためにそういった理由でのアジャスター取付はあまり思ったほどの効果が得られないように考えてはいます。
今回のオーダーではネックの角度が高すぎるために既製品の駒では弦高を十分に高くすることができないことが交換の理由でした。この場合にはたしかに駒を一から製材して作製するかアジャスターで高さを稼ぐしか方法がないと思われます。
もしかしたらベルギー駒なら立てられるかもしれませんが...😅

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