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バイオリンのペグ交換ってどんな修理?必要な場合と方法について

 



下川バイオリン工房です。この記事では”ペグ交換”という作業についてお話します。

ペグは日本語で”糸巻き”とも呼ばれ、バイオリンのヘッドに取り付けられる弦を巻き取って張力をかけ、チューニングを行うためのパーツです。バイオリン本体と同様に木製であるため消耗することがあり、交換が必要な場合がでてきます。通常は専用の工具が必要なため店舗での交換が必要となるパーツです。今回はどのような場合に必要となるか、またその方法についてお話します。

いままでの記事でペグ穴の穴埋め(ブッシング)やギア式ペグについて話しているため順番が前後してしまってますが今回の話はそれらの基礎となります。なお、コントラバスのペグマシンについては取付方法がまったく異なるため今回は書いておりません。

目次

ペグ交換が必要な症例パターンについて

➀ペグ折れ

単純にペグが折れて使用できなくなるパターンです。
ペグの材質には主に黒檀・ローズウッド・ツゲの三種類があります。(その他にもスネークウッドやフェルナンブーコ、プラスチックなどさまざまあります)
折れることが多いのはツゲです。特に画像の形状(一般に”ヒルハート型”と呼ばれる)は手をかけるペダル部分とシャフト部分との間の首の部分が非常に細くつくってあるために折れやすいです。

一本だけの交換も可能ですが美観の観点から4本すべて交換することが多いでしょう。

➁ペグが短くなっている

ペグボックスとペグが摩擦のみによって回転せずに止まっている構造のため、ペグは回しながら奥へ奥へと押し込んで使用します。演奏のたびに繰り返すうちにペグ穴はどんどん拡がり、ペグは押し込まれていきます。

このペグボックスから出ている部分の長さが短くなっている状態のことです。
ペグが短いために回しづらく、また美観も良くない為交換を行います。

➂ペグ穴が摩耗している

ペグを回転させる摩擦によって穴の内側が削れて行きます。製造段階でペグが精確な丸に削れていない場合や表面が滑らかに整えられていない場合には穴の摩耗を早めます。

また穴内部が削れることでペグとの摩擦や弱くなり、弦のテンションに対してペグ回転しないように保持するのが難しくなります。そういった状態を改善するためにペグ自体に調整剤や松脂粉末、チョーク粉末などを塗ることがありますがこれらの研磨成分もペグ穴の摩耗を早める原因となります。

穴を削りなおせば解消できますが、ペグが奥へ押し込まれて短くなるため、同時に交換を行います。

店舗や工房への相談

上記にような様々な原因によってペグが回しづらい、チューニングしづらい、チューニング後に音程を維持できないなどの問題が発生した場合には専門店に相談しましょう。

解決方法は症例によってさまざまですが、対策をしないと楽器の状態が悪くなったり練習の妨げとなります。🤧

ペグの状態確認と単純ペグ交換では対処できない症例について

ここまでは単純なペグ交換が必要な症例についてお話しましたが、実際は様々なペグの状態(寸法、形状、位置、角度など)によって対応する修理は異なります。
それらを一つ一つ確認していきます。

➀ペグの太さ

バイオリンのペグの太さは通常7.5~7.8mm(画像の赤矢印の部分)です。
ペグ交換を行うたびにペグは太くなっていくため、現在どのくらいの太さであるかを考慮しなければなりません。

8.3mmくらいが限界だと考えています。また市販のペグは9.2mmくらいまでしか規格がない場合が多く、それより太いペグはペグを削るシェーパーなどの規格の点からもおすすめできません。
画像二枚目のように太くなるほど弦のかかる部分が中心から離れていくためにペグを回転させようとする力は大きくなります。回しにくく止まりにくいことを意味しています。

太すぎる場合にはブッシング修理が必要です。下にこの修理に関してのリンクを貼ります。

➁ペグのテーパー(角度)

テーパーとは画像のような円錐の角度を表すものです。
例として1:20とは長さ⑳に対して太さが➀細くなる(もしくは太くなる)角度を表します。

90年代までは1:20のペグが主流であり、多く用いられていました。工具の発達により現在はペグの回しやすさや固定しやすさ、弦の巻きやすさなどの点から1:30が主流となっています。(1:20にも長く使用することに関してペグが押し込まれて短くなりにくいメリットはあります。)
ちなみに1:20はなくなったわけではなく、それに対応するリーマー(穴の削り器)やシェーパー(ペグの削り器)も製造・販売されています。

1:20の方が先細りとなっているので先の方の穴を削って1:30にしてしまえばいいという場合もありますが、そうでないこともあります。
削る過程で穴が広くなりすぎると予想される場合にはブッシングが必要となります。

➂位置・角度について

ペグの位置によってはA線(2番線)の弦がD線(3番線)に乗ってしまうことがあります。(A線がE線にのる。D線がE線にのるパターンもあります)
D線ペグを回せばA弦が動くのでチューニングが狂いますし、弦がこすれて痛む原因にもなります。この場合には当然ペグを交換しても穴は動かず、改善されることはあります。
またペグの角度が極端に斜めって取り付けられている場合などにも同様の状況が発生することがあります。

この場合にもブッシングが必要となります。

ペグ交換の方法について

穴を整える

ペグリーマーを使用して穴の内側を削り、整えます。
なるべくペグを太くしたくないので極力削り量は少なくするように努めます。

色々な角度から観察しペグの方向がきれいかを確認します。ただほとんどの場合には角度を修正することはできないため、無理しないように注意してください。

ペグ加工の準備

ペグの棒の部分のギリギリにナイフで切れ込みを入れておきます。
ペグにはたいていカラーと呼ばれる装飾が施されており、シェーパーで削る際に割れてしまうことがあります。あらかじめナイフで切っておけば棒の部分とカラーとの間に境界が生まれて破損を防いでくれます。

ペグの削り加工

ペグを削るにはシェーパーという道具を使用します。オーソドックスな4穴タイプ(それぞれ段階的に細くなっていて順番に穴に通していく)もしくは可動式タイプを使用します。
使い方はほぼ同じで鉛筆削りの要領でペグを手で持ち、回しながら削っていきます。この道具は見た目よりもよっぽど扱いが難しくなれが必要です。この記事では説明できないため省略します。

削る際にロウをぬると滑りが良くなってよいです🙋

ペグを磨く

※画像は『世界堂』様のHPより引用させていただきました。

削っただけではペグの表面はやや粗い状態です。
紙やすりを400番くらいから600番くらいまでかけます。この時にこすりすぎてテーパーや円形を崩さないように注意しましょう。
その後画像のような亜麻仁油(リンシードオイル)を1000番くらいの耐水ペーパーやすりに含ませて磨きます。

なおツゲの場合には焼きと呼ばれる特殊な工程(硝酸なで表面を酸化処理すること)が必要となりますがこの記事では省略します。

先端と弦穴の加工

バイオリンの場合ペグの長さはペグボックスの外側の壁からカラーまででおよそ11.5~12.5mmほどです。交換の場合には長く使用することを考えて少し長めにしておきましょう。
ペグは未加工段階ではとても長くなっています。ペグボックスの向こう側にはみ出た部分はノコギリでカットし、ヤスリで整えておきます。

ペグのシャフト部分のペグボックス内側の中央くらいの位置に弦を通す穴を開けます。穴の直径はバイオリンの場合は1.5mmほどで大丈夫です。

最後に

ペグが回しづらい・状態が悪いからと言って必ずペグを交換しなければならないということはありません。
弦の巻き方を工夫したり、調整剤を使うことで簡単に改善することはあります。自身でも調整方法を調べていただくことは大切だと思いますし、わからない場合には専門店に相談することが大事だと考えます。

電話などでもある程度お話聞くことは出来ますのでお気軽にご相談ください😌

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