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バイオリンの表板割れ修理【技法についてのお話】 ~Gクランプ編~

バイオリン割れイメージ

バイオリンの割れ修理技法について、実際の作業写真を用いて解説します。

割れの修繕方法にはいくつかありますが、今回は”オープン”と呼ばれる表板を外す作業から”Gクランプ”という道具を用いた方法をご紹介いたします。

目次

接着の為の準備

割れの状況を確認する

フチから6cmくらいの割れが発生しています。表からだと長さは確認しづらいですが、裏から見ればその規模がよくわかります。
パフリングがつながっているおかげで割れがひどくなってしまうのをある程度防いでくれているようです。

割れの部分の段差や細かい木が崩れていないか、またその破片が断面に挟まっていないかなどを確認します。
気づかずに長く放置されていた場合、汗や皮脂、ほこりなどが隙間にたまっていることがあるので、水をつけ細くやわらかなブラシなどでこすって落とします。

よく乾燥させたら接着作業に入ります。

使用する道具について

写真の一枚目の真鍮製のクランプ。こちらが『Gクランプ』です。
鋭い方はお気づきかもしれませんが、見た目がアルファベットのGに見えることからこの名前がついています。

他にも写真2枚目、3枚目のCクランプ、Fクランプなどがあります。その時々の状況によって数種から数十種のクランプを使い分けます。

技法の原理

まずはイラストで原理をご説明します。写真一枚目を見てください。
割れの内側に接着用のピースを取り付けます。

写真左下のようにピースをGクランプで挟み割れを接着するのが理想ですが、実際は右下のように割れの内側が支点となって内側にめり込み、表側に隙間が発生してしまいます。

そこでピースの間にくさびを打ち、支点の位置をずらすことによって力がかかる位置を表側にもっていきます。

さまざまな割れのパターン

板の割れ方、木材の変形などによってもさまざまなパターンが考えられます。
それに合わせてピースの接着数・位置・角度・高さ、Gクランプの挟む位置、くさびの厚み・差し込み具合などを細かく調整して割れ目がぴったりとくっつくポイントを探ります。

接着作業

ピースの接着

Gクランプをひっかける木片を表板の内側に接着します。これは後で取り除くので膠を使います。
木目方向に決まりはありませんが、私は取り外しやすさを考慮して木目が板と平行、小口が向かい合うように取り付けます。
なるべく近い方が力のコントロールはしやすいです。

割れが長い場合はこれがいくつも並ぶ場合もあります。

Gクランプを用いて接着

接着の際には段差ができてしまわないよう、実際に挟んでテストを行います。
写真の赤丸で囲っているのが”くさび”です。

表面、裏面がきれいにしまっていることを入念に確認します。本番で膠を入れると断面が少し滑ることがあります。また木が水分を含んで膨らんだりするのでそのあたりも考慮しておきます。

スタッズ(補強材)の接着

ピースを削って取り除き、”スタッズ”と呼ばれる補強材を接着します。
これはとても単純で割れ目の上をまたぐ様にうすい木片を接着して割れが再度開いてしまうのを防ぎます。

場所によっては丸のみを用いて木を彫りこみ、新しい木を埋め込む”パッチ”という修理をすることもあります。
3枚目がそのパッチ修理です。こちらは魂柱部分におこなっています。

仕上げ作業

ニスの補修

ニスの割れ目にアルコールを薄く入れてオリジナルのニスを溶かしふさぎます。
ニスが足りなくなっているところは新しいニスを細い筆で塗り、磨きを繰り返して埋めていきます。
慎重に色なども足しながら割れ目が目立たぬように補修を行って完成です。

今回はフチの部分の木材が汗で繊維がボロボロになって足りないのでパテを使っています。

最後に

バイオリンが割れてしまうと心配にはなります。大事のように感じてしまうかもしれません。
しかしぶつけたりしていなくても木材ですので自然に乾燥などで割れることもあります。小規模の割れであれば修理も安く、お時間もそれほどかかりません。(ちなみにこの修理は3~5日ほどです。)

一番気を付けることは割れを放置してしまうことです。長く伸びた割れの修理ほど難しく、変形や痩せ、汚れが入るとさらに難しくなります。
気づいたときにはなるべく早く修理に出していただければと思います。

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