バイオリン製作用に使う西洋カンナってこんな道具
どうもこんにちわ!下川バイオリン工房です。
今回は”西洋カンナ”とも呼ばれる工具”Plane”についてご紹介したいと思います。プレーンとは日本語で鉋(かんな)のことです。
このツールはバイオリン専用というわけではなく木工作業全般に使用できるものです。
家具や木工小物づくりなどのDIY好きの方で、のこぎりで切りっぱなしになってしまう部分やサンドペーパーで頑張ってケバケバをとったりしている方もこちらのツールを使えば簡単にプロと同じような美しい仕上がりを目指すことができます。アマチュアでも木工好きな方、もっと極めていきたいという方に少しでも参考としていただければ幸いです。
目次
- ○ 西洋かんなってどんな道具
- ○ 西洋かんなを製造している主要メーカーとオススメについて
- ・スタンレーのすすめ
- ○ 西洋かんなの仕立て方(調整方法)について
- ・パーツの確認と刃の取り外し方法について
- ・刃口の調整
- ・裏面の削り・磨き
- ・裏面の仕上がりについて
- ○ ブロックプレーン職人という存在について
- ○ 最後に
西洋かんなってどんな道具
日本に昔から使われてきた和鉋(わがんな)に対して海外で開発された【鋳鉄】製の鉋のことを西洋鉋といいます。
二つの鉋の簡単な違いについては西洋かんなは台を含めてパーツのすべてが鉄でできています。(鋳鉄”ちゅうてつ”という技法によるものです。和がんなは樫などの木材で台を作ります)
また和がんなは木材を削る際に腕で手前に引きながら使用するのに対し、西洋鉋は押して使用するところも大きな違いとなります。
写真一枚目はブロックプレーンというタイプの西洋かんなです。片手で扱えるサイズの鉋では最大の大きさのもので、バイオリン製作・修理のさまざまなシーンにおいて最も活躍の機会の多いものです。
他にも大きなサイズのベンチプレーンなどさまざまなタイプが存在します。
西洋かんなを製造している主要メーカーとオススメについて
メーカーはとても多いためにすべてを紹介することはできません。道具好きな方は”Plane””Tool”などとと検索していただくと色々なモデルや形状のものが出てきてわくわくします。
今回はプロ向けの主要メーカーとDIYに便利な安価モデル。そして私のオススメモデルを紹介します。
まず写真1枚目
●Lie-Nielsen(リー・ニールセン)
型 番 No.60-1/2
本体サイズ 全長:159mm 幅:44.5mm
ブレード 幅:35mm 厚さ:3.2mm
重 量 680g
価格 $175.00(約19,200円 2021年9月20日)本体価格のみ
標準的なブロックプレーンよりはスリムに設計されたサイズのモデルです。 重量はこうして数字で見ると最も軽いタイプのダンベルくらいありますが、ブロックプレーンの中では軽い部類に入ります。
【メリット】リーニールセンはアメリカのメーカーです。その特徴は美しさにあります。仕上がり精度はかなり高く、おそらくほとんど仕立てる必要もないくらいの出来栄えに驚かされます。
真鍮パーツを使用した製品が多く、道具として使うのがもったいなく思うほどに洗練されたデザインです。また材質がいいため経年による変形や摩耗なども少ないです。
【デメリット】徹底的に無駄を省いた作りとなっているため、調節機構が非常に簡素化されており、慣れないと刃の角度や出具合の微調整が非常に難しいという点です。完全なプロ仕様といった商品で、使いこなせれば素晴らしい成果を出してくれます。
また、値段がとても高価です。本体価格い輸入の際の関税や送料、代理店手数料などを入れると25000円近くなります。精密機器を除けば手工具の中でもっとも高い部類に入ります。
写真2枚目は
●Veritas(ベリタス)
本体サイズ 全長:162mm 幅:50.8mm
ブレード 幅:41.275mm
重 量 793g
価格 €157.00(約20,170円 2021年9月20日)木工道具通販サイトDictumの価格の為、ユーロとなっております。これに送料がかかります。
もっとも標準的といえる刃幅、本体サイズのモデルです。(このサイズをNo.9 1/2と呼ぶことが多いです。) 重量はブロックプレーンの中では重い部類に入ります。
【メリット】ベリタスはカナダのメーカーです。製品としての精度は高く、ニールセンとも引けをとりません。また流線形のデザインで近未来感を感じます。現代的なデザインで手の中への納まりもいいでしょう。材質をグレードアップした替え刃が純正で存在します。研ぎが上達してそろそろこだわっていきたいという方のために道具のアップデートが手軽にできるのは魅力といえます。
また調節機構は独自のものを使用しており、細かく刃の向きの調整が可能です。本体横の刃口の脇にも調節ネジがあり、さらに細かく調整が可能となっているのも特徴です。(正直一日使う道具なので、研ぎも多く、都度こんなに細かい調節していたら日が暮れてしまうように思います(笑))
【デメリット】正直重いです。慣れればどうということはないですが、最初の内は手首がやられてしまうかもしれません。その重さが安定感を生んでいるため、悪いとは言えません。コスパはいいですがやはり価格はやや高いです。
写真3枚目は
●Dictum(ディクタムorディック)
本体サイズ 全長:160mm
ブレード 幅:35mm
重 量 840g
価格 €72.70(約9340円 2021年9月20日)木工道具通販サイトDictumの価格の為、ユーロとなっております。これに送料がかかります。
ニールセンと同じサイズのモデルです。DictumのPB(プライベートブランド)商品です。
【メリット】やはり木工道具(楽器製作工具)の専門通販サイトとして間違いのない質を持っています。デザインはこんなにザ・PBっていう感じに茶色で地味なデザインにしなくてもいいのにと思ってしまいます。メリットはとにかく価格が安い点にあります。コスパ最強
【デメリット】重いです。スリムタイプなのにどこがこんなに重いのだろうと思ってしまいます。本体の削りこみが足りないのか思ったよりもしっかりした刃が搭載されているためかわかりませんが、プレーンの重さは結構作業性に影響を与えます。
写真4枚目は
●Stanley(スタンレー)
型番
本体サイズ 全長:160mm
ブレード 幅:41.5mm
重 量 770g
価格 €67.50(約8670円 2021年9月20日)木工道具通販サイトDictumの価格の為、ユーロとなっております。これに送料がかかります。
ベリタスと同じサイズのモデル(No.9 1/2)です。僕としてはスリムタイプはそれが求められる作業が主である場合を除けば選ぶ理由がないです。刃の幅が狭いほどに平面出しが難しくなりますし、台の面積が狭いということは材料への当て感が悪くなるということなので、このサイズが取り回しの良さと作業性のバランスの限界であるように思います。
【メリット】スタンレーはその脅威的な安さが魅力です。同じDictum内に掲載されていながらPB商品よりも安くなっているのには驚きます。また作りはシンプルで使いやすいです。調節機構を動かしたときの反応の良さと微調整加減がちょうどよいです。(慣れもありますが)
また、重さが軽いです。重心などの関係でベリタスより若干軽い設定ですが体感は大分違います。
【デメリット】買ってすぐ使うことができない商品です。精度がとても悪く、台の直しやパーツの調整が必要な場合すらあります。(簡単に言えば製品に当たりはずれはあります。)プロ仕様の道具ではなく、ホビーに近いものがあります。
ちなみに写真5枚目はスタンレーの上位モデルです。
僕の個人的な意見としてはスタンレーにそのようなものは求めていないため、安価で使いやすい鉋の製造を続けて欲しいと願っています。
スタンレーのすすめ
もしかしたら記事の書き方で熱意が伝わってしまったかもしれませんが僕はスタンレーの鉋をお勧めしています。
ただお金が十分ある方で高くてもいいものが持ちたい方は絶対に選ばない方がいいのがスタンレーです(笑)。
オススメの理由はとにかく安いのでプレーンを改造することに抵抗がないこと(刃の交換や台を削ったり、大胆に肉抜きしてしまったり)
仕立てが完了して精度が上がればかえってベリタスやニールセンよりも使い勝手がいいこと(サイズや形状、調節機構や刃の固定装置の使いやすさ、台の重さや重心など)
仕立てに苦労する分、道具としての愛着がわくこと ←これ一番大事かもしれません
西洋かんなの仕立て方(調整方法)について
パーツの確認と刃の取り外し方法について
西洋かんなは大きく分けて3つのパーツにわかれます。
①抑え(刃を固定するためのパーツであり、鉋を押して使用する際の当てにもなります。和鉋でいうところの裏金のような効果も持っています)
②刃(鉋身・鉋刃のことです。西洋かんなの場合は基本的には【全鋼】の刃を使用します。)
③鉋台(鉄製。台は刃口を調節するパーツと刃を取り付ける台に分かれます。また刃の向きを調節するバーや刃の出具合を調節するネジもついています)
メーカーによって調節ネジの動かし方や動かし幅、刃の動き方などが少しづつ違うため、ちゃんと説明書を読みましょう(外国語で書いてありますが、図を見れば何となくわかりますし、そんな複雑な道具ではありません😅)
抑えのネジを外し、刃を取り出します。分解状態と組上がり状態それぞれでの各部の動きに不備がないかチェックしておきましょう。ステンレーの場合、
ネジの取り付け位置などに致命的な不具合がある場合があるため、注意が必要です。
この時点で刃を研ぐ必要はありません。
刃口の調整
先端のネジを緩めることで、刃口の金具が前後に動かせるようになります。
刃を少し出した状態でギリギリくらいになるように調整しましょう(広すぎると逆目に引っかかるようになります。逆に狭すぎると木くずが詰まるので注意)
刃の出具合は写真3枚目のように裏側を鉋の前面から見るようにすると見やすい
裏面の削り・磨き
鉋台の裏面が上を向くように机にセットしましょう!なんか形状的にうまい具合に角に固定できます。
ダイアモンド砥石(ホームセンターで千円くらい)の1000~400番くらいのものや金工やすり、木のブロックにサンドペーパーを張り付けたものなどで出っ張っている部分を削ります。
木のブロックは平らにしてから使うのですが、平らにするのに鉋が必要なためニワトリが先か卵が先か的な話になります😅 MDFなどの木や紙の合成材のようなものがホームセンターに売ってますがそこそこ平なので使えます。
適当にこすっても平になりません。なかなか減らない上に最終的にはピンポイントに出っ張りを探して削る感じになります。根気のいる作業で大体みんなこの段階で職人を諦めるか悩みます。
写真を撮ってませんが【ストレートエッジ】という平ら具合をチェックする専用の道具があるのでそれを使うとなお良いです。(値段高いです)
裏面の仕上がりについて
西洋カンナの裏面は真っ平です。和がんなは材との摩擦などを加味して少し中すきに仕上げますが、こちらは真っ平にすればいいので台の調整は大変ですが誰でも時間をかければできます。
真っ平であり、かつ刃口が狭く、刃角度が低くなっているために和がんなでは到底かけられないような、木口・面積の狭い面・細かい面取り・小さな部材へのかんな掛けなどを可能としています。
つまりほぼすべての木工作業に使用できる優れものです。
ブロックプレーン職人という存在について
(写真はScott Meek Woodworksさんという方のホームページよりお借りしました。リンクも載せておきます。)
The photo was borrowed from the homepage of Scott Meek Woodworks. I will also post a link.
海外にはハンドメイドで鉋を製作する職人さんがいて、木材や金属で作製された作品をいくつも写真でみて感動しました。
木工道具はあくまで道具であり、そこから作品は生まれるが、それ自体は作品になり得ないと思っていたので道具としての洗練された仕様とデザインとの両立に驚きました。
また木のパーツと金属パーツを掛け合わせたような作りは工業製にはありえないため、ハンドメイド独自の技術といえます。
A list of contemporary planemakersと検索すると職人さんたちのHPをまとめたページに行くことができます。
是非僕も一回はハンドメイドの鉋を作ってみたいと思いました。
最後に
高価なモデルの西洋かんなについてほとんど仕立てる必要はないといいましたが、仕立てというのは絶対的に必要であると僕は考えます。
人によって道具への考え方は異なると思いますが、”使えるようにする”のではなく”使いやすいようにする”ことが必要であるため、その道具がオーダーメイドなどで作られていない以上、仕立ては必ず行うべきです。
道具の調整はバイオリン演奏でいうところのチューニングくらいの感じで考えていますので、しないことには作業には入れません。
木工職人のプロを名乗る方で仕立てをしたことないのは嘘だと思いますし、趣味で木工されている方でもきちんと仕立てられた道具でカット・仕上げをするようでしたら腕にかかわらずセミプロといっていいように思います。