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バイオリン修理に使う【膠(ニカワ)】ってなんだろう。



バイオリンの製作や修理において木材同士の接着には伝統的にニカワが使用されてきました。

【膠(にかわ)】とは、動物の皮・骨・筋などを煮出した煮汁から作られる接着剤の一種である。

こう聞くとなんか気持ち悪い。臭そう。腐らないの?などと思うかもしれないがその通りである。そんな”膠”(以下ニカワとする)の正体についてこの記事で話していきたいと思います。

目次

ニカワとは?

先に話した通り、動物の骨や皮などを煮出して抽出した液体から作られるのがニカワである。
皮から作られるものが多く、広く使われています。
「膠」という言葉には、くっつく、粘る、硬いなどの意味がありますが、皮を煮る=ニカワとなったとも言われています。

日本では牛の皮から作られる牛膠がよく見られますが、他にも鹿やうさぎ、魚など様々な動物から作ることができます。
ニカワにはコラーゲンの他にも動物由来の成分がさまざま入っていますが、こうした不純物を限りなく取り除いて食用に加工したものが皆さんがよく目にする”ゼラチン”です。

ニカワは板状であったり、棒状であったりさまざまな形態で売られていますが、最終的にはどれも写真のように粒の状態に砕いて使用します。

ニカワの性質

膠はたんぱく質の一種である”コラーゲン”が正体です。
複雑な構造を持つたんぱく質は60~70度ほどの熱を加えることでその構造が変化していきます。

低温では固形を保っているニカワは熱を加えることでほぐれて水分を吸収して液状になります。接着で塗りこむ際の状態です。(写真一枚目)
水を多く含ませることで筆などを使って容易に塗料のような感覚で塗ることができます。

温度が下がると急速に離水してたんぱく質の構造はもとに戻ろうとします。(固形になる)
写真2枚目のようにぱりぱりになります。

ニカワの利点

昔の人がニカワを使用した理由として、まず現代使われるような瞬間接着剤、エポキシ接着剤、酢酸ビニル接着剤(木工ボンド)のようなものはなかったというのはありますが、ニカワにはそれらの接着剤と比べても優れた点がいくつもあります。

①接着力
膠はタンパク質と水だけで構成されたシンプルなものです。
木材に塗った際に水分を含んでいるためにある程度木部の導管の中や切削面の細かい傷などに膠が入りこんでいきます。たんぱく質を含むために水分のようにどんどん木部の中を透過するわけでなく、ある程度のところで温度低下と水分吸収の為に硬化してとどまります。
ニカワが物体を接着する際には図の1枚目のように隙間にみっちりとニカワが入り込み木材同士の間で楔となってつないでいます。このとき分子同士が引き合う力”分子間力(ファンデルワールス力)”なるものも働いているらしいですが本当でしょうか(笑)
いずれにしてもニカワの接着力は非常に強固で、ハンマなどで多いきり叩いても取れないほどのものです。

②再現力
前述のとおり、加水と加熱によって柔らかくしたり、硬くしたりということが可能であるために、その性質を利用してどんなに古い楽器であっても、どんなに強固に接着してあっても木を傷めずにパーツの取り外しができます。また天然物質であるために科学変化などによる木部へのダメージも少ないです。

③保存性
ニカワは固形の状態で保存するため、腐りにくい性質を持ってます。(菌などの繁殖には水分が必要で水分活性というものが関係してきます)
塗って乾燥させた場合も同様です。天然由来の接着剤ですが、水分をしっかりと抜いてあれば菌などは発生しません。

ニカワの使用方法

ニカワを使用する際には”湯煎”を行います。
作業に関しての写真はすべてないため申し訳ないですがいずれ用意したいと思います。

①鍋などに水をためて加熱します。(60~70度) 『膠を炊く』という言葉もありますが、沸騰は禁物です。タンパク質の構造は加熱しすぎると変形したままもとに戻らなくなります。(変性)

②小瓶などに膠の粒と水を入れて加熱します。 写真は掃除しやすさの点からシリコンカップを使用していますが、熱伝導率を考えるならガラス瓶一択です。ちなみに金属はだめです。参加して黒くなったり、さびが入っていると急激に接着力を失います。

③完全に溶ける(ニカワ分子が水の中に分散して水溶液となる)と表面で温度の下がったニカワが膜を作るような状態になり、液体の透明度が増します。
  ※ニカワ液の濃度(ニカワの硬さといったりする)に関しては、水分量に決まりはありません用途に応じて変えて下さい。しかしみずっぽすぎるのは危険です。
   ニカワが最大の接着力を発揮するのはニカワ:水=4:6といわれますが、これは大分濃いためにバイオリン修理で使いこなすのは難しいです。

④木材を温める ニカワを塗った際に木部に熱を奪われて急速に固まります。それを防ぐために接着面を温めておきます。
部位によっては温めにくい場合もありますが、接着を確実にかつきれいに行うには必要な作業です。

⑤筆で塗ります。 必ず両面に塗ってください。

⑥余分なニカワはクランプでがっちりと挟むか、接着面をすり合わせるなどして取り除きます。またはみ出たニカワも必ずふき取ります。
 ※この時に良く絞ったきれいな布巾を使用してください。お湯を直接つけるのはだめです。(ニカワの濃度が変わります)

⑦一晩乾燥(実際は3~4時間ほどで十分です)

接着の際の注意

接着面は丁寧にやすりやサンドペーパーなどで磨いておくか、もしくは鑿や鉋などで表面を削っておきます。
画像のように表面の傷が深い状態だと、ニカワは木部の中にしみ込みすぎてしまったり、乾燥して痩せた際に傷を埋めるには不十分な量となってしまって、接着力が著しく弱くなります。

ゴリラークリアグルーなどのようにガラスもくっつけちゃうようなそれ自体に粘着力と硬化力のある接着剤ではないため、注意が必要です。

ニカワの歴史

ニカワは紀元前3000年の古代エジプトですでに接着剤として使用されていたそうです。美術工芸品や家具・棺への使用などです。
中国ではさらに古く紀元前4000年ごろに使用されていました。

日本に伝わったのは大分遅く7世紀ごろだそうです。日本は獣を食べる文化が無かったからです。

バイオリンにも最初期から使用されていました。おそらくバイオリンよりも前のリュートなどの弦楽器にも当然使用されていたことでしょう。
最初に発明した国はどこかはわかりませんが人類にとって偉大な発見であることは間違いないですね。

最後に

ニカワを溶かす作業においてはこのトラベルポッドが最強だと思っています。

しっかりとしたニカワ作業スペースが用意できているのならば電熱器が便利ですが(木材の温めもそれでできてしまうため)、机の隅に置いて接着作業をする際にトラベルポッドは大きさや使い勝手において勝っているように思います。

当然ですが、もともとは湯を沸かすものなので、スイッチを入れてほっといたら沸騰します。
電圧コントローラー(パワーコントローラー)を使用すると水温の調節が可能となります。

ちなみにIHはおすすめしません。温度調節が難しく、パワーがありすぎます。
また水の対流が悪く水温が一定になりにくいなどあります。

牛筋カレーのレトルトパウチも温められて最高!

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