バイオリン修理用ニスの製作 『spirit varnish”1704”』
みなさんこんにちわ!」下川バイオリン工房です。
当店で修理の際に使用しているニスを最近作りなおしたので、ご紹介したいと思います。
今回紹介するのは古く伝統的なイタリアのレシピ”1704ニス”です。
当店での作り方から、その特徴などについてもお話します。
目次
- ○ 1704ニスの歴史
- ○ 1704ニスの特徴
- ○ 1704ニスのレシピと作り方
- ・シードラックとは
- ・サンダラック
- ・エレミ
- ・スパイクラベンダーオイル
- ○ 最後に
1704ニスの歴史
1704という数字はご想像通り1704年という意味を表しています。
あの有名なアントニオ・ストラディバリ(Antonio Stradivari、1644年/1648年/1649年 - 1737年12月18日)が残したとされるニスのレシピを記したメモの中から数世代先の子孫であるジャコモ・ストラディバリ(Giacomo Stradivari)がコピーして記録したという伝記が残っているニス
当時はとしては革新的なニスのレシピでアントニオ・ストラディバリ自身は使ってなかったのではといわれたり、ジャコモ・ストラディバリの手書きのメモの存在、偽造疑惑やジャコモ自身はバイオリン製作家ではないとされるなど謎の多いニスではあります。僕自身もその専門家ではないためはっきりしたことは申し上げれられません。
いずれにせよ現代において、ニスのレシピとしてはとても優れていると考えられています。
1704ニスの特徴
1704ニスの特徴はとても乾くのが早いことがあげられます
また透明で丈夫な塗膜を形成することがで、さらに伸びが良いために塗りやすくムラになりにくい、隙間にしっかりと入れることができるなどの数多くの優れた特徴を持っています。
悪い特徴というわけではありませんが、スティックラックの色成分が多いということ、また経年による色の変化が大きいことなどもあります。
当店ではそれらの特徴を加味して修理の際のニスレタッチにのみ使用しています。その作業に向いていると思われるためです。
1704ニスのレシピと作り方
1704は実際様々なレシピが存在しており、用途などによって微妙に調整されています。
当店でのレシピは以下のようなものです。
1. 180g シードラック(スティックラック)
2. 30g サンダラック
3. 30g エレミ
4. 15ml スパイクラベンダーオイル
5. Spirit(アルコール) 適量
【作り方】
シードラック及びサンダラックをそれぞれ砕いて粉砕します。(アルコールに溶かす際の時間を短縮するために行っています。)
乳鉢ですってもいいですが、コーヒーミルを使用すると一瞬です(僕はカルディで買いました(笑))
ストッキングに二つの樹脂の粉を入れておきます。ろうとなどを使ってゆっくり入れます。(急ぐと粉が舞います)
次にスパイクラベンダーオイルにエレミを溶いておきます。
密封できる瓶を用意し、先ほどの樹脂入りのストッキングとエレミを溶いたラベンダーオイルを投入し、アルコールを注いで軽く振って混ぜます。
※金属の容器はNGです。また溶かす際に湯煎によってアルコールを温めると早いです。直火NG)
2週間ほどちょこちょこ混ぜながら置いておくと完成です。
中のごみなどは気になる場合は粗目のガーゼなどでこすと良いでしょう!
シードラックとは
僕は樹脂を”日本リノキシン”というところから購入しております。公式HPへのリンクを下部に貼っておきます。
こちらは”シードラック”
寄生昆虫の分泌物であり,ラックカイガラムシLaccifer laccaがインドボダイジュFicus religiosa L.などの枝に寄生し,自分を保護するために樹脂状物を身のまわりに分泌する。これをあつめてとったものがスティックラックstick lacで,これをさらに精製したものがシードラックといいます。
当然不純物などを含んでいるためニスとして使用する際には濾過が必須です。
サンダラック
こちらが”サンダラック”
サンダラックは北アフリカ(主にモロッコ)に生育する、ヒノキ科の針葉樹木です。サンダラックの木から得られる芳香樹脂は、樹皮に切り込みを入れて樹液を滲み出させ、そのまま乾燥させてから削り落として採取されます。
薫香としても使用され、加熱するといい香りがします。(スモーキーで渋みのある、奥深いバルサムの香り。神秘的な香りで瞑想や儀式を目的とした薫香にも使われます。)
エレミ
こちらは”エレミ”
エレミは熱帯地域に分布する樹木で、その粘性のある樹脂をニスなどに使用します。
また樹脂から精油が採取されます。エレミの精油は、古代エジプト時代から香料としてだけでなく、防腐剤としても使用されていました。
軟膏としても使われていたそうです。
こちらも柑橘系のウッディな香に少しスパイシーな感じがあります。
スパイクラベンダーオイル
こちらは”スパイクラベンダーオイル”
スパイクラベンダーは、スペインやフランスの山岳地帯を原産とするラベンダーの一品種です。精油は溶解力が大きいことから、ルネッサンス時代の画家たちはこの精油を油絵の希釈剤として使用していたといいます。
男のラベンダーなる別名もあるくらいきつく力強いにおいがあります。ニスの伸びを良くしてくれます。
ホルベインが製造しているシリーズがあり、画材屋などで簡単に購入できます。
最後に
ニスのレタッチで一番難しいことはその強度、色合い、艶、そして音響特性の違いを考えていくことだと思います。
古くからある伝統的なニスが現代においてもここまで実践的に修理に使用できることに驚きます。昔の偉大な製作者たちに感謝です。
1704は先の説明からもわかる通りいいにおいがします😊 個人的にはすごくリラックスできる香でついニス瓶の蓋を開けてしまいたくなります。