毛替えの毛量は細かく調整ができます【調整による変化と方法について】
みなさんこんにちわ!下川バイオリン工房です。
本日は弓の毛の量と調整による変化などについてお話します。
自分自身や弓に合った絶妙な毛の量を体感的に知っている奏者の方もいらっしゃいますが、数値化するのは難しく工房側との連携がないと維持できません。
この記事ではもっと単純に毛の量が違うと何が違うのか、今の量よりちょっと増やしてみたり減らしてみたりということを誰でも簡単にできるような方法について考えていきたいと思います。
目次
- ○ 毛替えの際の毛量の調節について
- ・毛量の基準と注意点
- ○ 毛が多いこと・少ないことによるメリット・デメリット
- ・毛替え頻度
- ○ 弓毛の張られる仕組みと張力について考える
- ・毛を張るときの状態変化
- ・毛量と張力の関係
- ○ 終わりに
毛替えの際の毛量の調節について
毛の量は張った後や使用中に切ったり足したりして調整することはできません。これは全体のバランスが崩れる恐れや松脂がついていること、また毛の留め方などの問題からです。
毛替えを新しく行う際にお店の方に相談しながら毛を増やしたり減らしたりといったオーダーを行います。
調整自体はただ毛の量を変えていつもの作業を行うだけであるため、技術的な問題を心配する必要はありません。
作業時間・作業量・工賃など特別変わりなく行えます。
毛量の基準と注意点
当工房では写真一枚目の”ヘアゲージ”と呼ばれる道具を用いて毛の量を測っています。
4/4バイオリンの場合の毛の量はゲージの目盛りで『9』を基準としています。(目安 約200本分、約6g ⇒ 実測値 194本、5.7g) ※1メモリ当たり21.5本 全量の10%相当
調節するとしてもその幅は目盛りで『8~10』です。
最小『8』は分数バイオリンの基準値であり、これ以上少ないと広げた毛束に抜けが出てしまいます。
最大『10』はビオラの基準値であり、これ以上は物理的に入りません。(写真2~5枚目のようにフロッグやリング、先端の穴は幅がある程度決まっているため入る量に限界があります。)
【各弓の調整幅の目安】
分数バイオリン 『7~9』※サイズによってちがう
ビオラ 『9~11.5』
チェロ 『11~13.5』
コントラバス 『16~20』
毛が多いこと・少ないことによるメリット・デメリット
<メリット・デメリットであるため大げさに書いてありますが、毛量による差は小さいものです。文章に”やや”と足してもいいです😊>
【毛が多いとき】
●メリット
張力が分散されるため、毛が切れにくい
弓毛全体の張力のバランスを取りやすい
弦に当たる面積が広いため音量を出しやすい
●デメリット
細かい表現はしにくい(スタッカートやピアノ)
毛を張る際に必要な張力が強いため、弓の負担が大きい
【毛が少ないとき】
●メリット
一本当たりの張力が強いため、毛のバラツキが少ない
弦に当たる面積が狭いため、細かい表現がしやすい
必要な張力が弱いため、弓への負担が小さい
●デメリット
張力が分散しにくいため、毛が切れやすい
少ないために切れた際に全体バランスが崩れやすい
毛替え頻度
毛替えの頻度で考えて時に毛の量が多いとなかなか切れず、たくさんあるから長く使えていいと考える場合もあるかと思いますが、馬の毛自体が天然のものですのでおいておくだけで自然に劣化してしまいます。
たとえ一本も切れなかったとしても、毛の芯がすかすかになって引っかからなくなったり、松脂が馴染まなくなったり、汚れや油を吸収して黒くなったりします。
毛の交換目安は量が少ない場合には3ヶ月から半年ほど
多い場合でも1年~1年半くらいで交換しましょう🤤
弓毛の張られる仕組みと張力について考える
毛を張るときの状態変化
みなさんがネジを回して弓毛を張ろうとするときネジに連動したフロッグ(黒いパーツ)が後ろに動いて毛を引っ張っていきます。
毛が引っ張られて伸びていくときにはその反対の力(フロッグを戻そうと動く力)が働いています。しかし、フロッグはネジで固定されているため、実際に力がかかるのは弓の方なのです。
伸びた毛がもとに戻ろうと弓を引っ張る力=弓が突っ張って毛を引っ張り続ける力
この関係が成り立っています。このバランスが崩れるときに弓は折れます。それほど毛の引っ張りに対する強度は強いということです。
毛量と張力の関係
理科で習った問題でおもりの重さが同じ時にそれを吊り下げているワイヤーが多いほど一本のワイヤーにかかる重さは少ないという問題です。
ワイヤーをすべて同じ張力で引っ張ろうと思ったら二本ワイヤーの方のおもりは100gでなければいけません。
ワイヤーを馬毛に置き換えて考えると本数が多くなるほど張るときに必要な力は大きい=弓にかかる張力が大きいとなります。
終わりに
こうしてみるとまるで毛が少ない方がいいのではないかと思うかもしれませんが、毛が少ないと切れやすかったり・松脂を少なくしたり・マメに毛替えをして費用がかさんだりと良いことだけではありません。
ご自身の使用頻度と演奏スタイルに合わせて微調整をすることが大切です。
毛の量を調節したいけど自分はまだそこまでのレベルじゃないとか初心者だからなどと気にする必要はないです。まずは工房に相談してみましょう。
少しずつ量を調節して自分に合った量が見つかれば上達の近道となるかもしれません🙏