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バイオリン製作について⑤【表板製作編】



今回の記事ではバイオリンの表板の製作についてお話します。(英語ではSurface boardといいます)

表板の製作工程は裏板製作の工程に加えてバスバーとバイオリンらしさの象徴ともいえるF孔の工程が加わります。並べるとこのような感じです。

①はぎ合わせ②平面出し③型抜き④アーチ製作(+パフリング)⑤裏彫り⑥f孔を切る⑦バスバーの取り付けで構成されています。

実際ははぎ合わせ前に平面出しを軽くやっておいたり、裏彫りを一部仕上げずに残して、f孔を切った後にアーチや裏彫りの調整を行ったりといった工程がある場合もありますが、記事で書くと細かすぎるため割愛いたします。

表板はバイオリンの顔ともいえるパーツです。製作は楽しみながらこだわっていきましょう!また、f孔やバスバーなどバイオリン製作の中でも難しい部類に入る作業がありますので集中力が必要です。😊

目次

表板について

表板とはどのようなもの?

表板とは写真のように、楽器の本体を箱として考えたときに駒が乗っている側の板のことです。
表板の厚みは中心部で3.5mmほど、フチにに近いほど薄くします。一番薄い部分で2.4~2.5mmほどです。
材料によって厚みを調整する必要があるため、さらに薄い場合や4~5mmほどまで厚くする場合もあります。

二つついているf孔の穴から響胴ないで増幅した音が外に出ます。内部にはバスバーという細長い木の板が接着されており、表板を駒の圧力から支えるとともに振動を全体に伝えています。

板の厚みは薄すぎても振動しすぎて音がまとまらず強度的にも不安があります。厚すぎても振動を阻害してしまいます。

表板の材料

表板

表板の材料はスプルースです。(スプルースはマツ科の植物ですが、日本の黒松などとは似ていません。)
厚みや幅を確認しましょう。バイオリン表板の寸法は横幅がもっと広い部分で105mmほど、厚みはフチで4mm、中央で16mmくらいです。(製作するモデルによって変わってきます)
大きさに十分な余分があるものを最初は選びましょう。加工に手間取り寸法が足りなくなるのは怖いことです😭

密度の濃い部分にハーゼという三日月の模様が出ることがあります。(ハーゼはドイツ語でウサギの意味です)
この部分は強度が高く、音も少し硬めになります。これを選んでも大丈夫ですが、模様が深いものほど削るのは難しくなります。
当然ですが節やヤニだまりなどが無いものを選びましょう。

表板加工に使う道具

スクレーパー

西洋カンナ

表板製作には様々な道具を使います。職人によって使用する道具が少し違ったり、形状なども異なりますがおおむねこのような道具を使用すると思います。
写真の上から
『豆かんな』・・・文字どおり豆のように小さなかんなです。木材の方面を薄く削るのに使います。写真ではわかりづらいかもしれませんが底が丸いものと平らなものがあり、掘りこんだり、平らにならしたり、出っ張った部分をならしてカーブをつなげたりと様々な用途に使用できる優れものです😊
『ノミ』・・・木材を大きく彫り込んでいく際に使用します。豆かんなが仕上げに近い作業だとしたら、ノミは最初の荒堀などの形作りをおこなう作業です。これも丸や平のものがあります。
『スクレーパー』・・・鉄の薄い板です。フチには返しと呼ばれる爪がついており、木材の表面をひっかくような形で薄く削り取ります。
『プレーン』・・・いわゆるカンナですが日本のものと違い台もすべて鉄でできたものです。(西洋かんなともいいます。)

表板の加工作業について(はぎ合わせ→型抜き→切り抜きと荒堀り→パフリング→裏彫り)

表板の基本的な加工については裏板と同様です。詳細は下部のリンクをクリックしてください!

表板は裏板に比べて柔らかいため削りやすいため、おおまかな形を作っていくのは容易です。一方で表面をきれいに仕上げるのは難しいため、よく切れる豆カンナやスクレーパーが必要になります。

表面をサンドペーパーで仕上げることもできますが、繊維がつぶれてしまうため、木目が波打ったり、ニスを塗ったときに木目がぼやけてしまったりします。
裏彫りまで作業が完了したら次の工程に移りましょう!

f孔を切る

テンプレートを使用してf孔の形を表板に写します。f孔の位置はモデルによって微妙に角度など変わってきますが、おおむね写真の4枚目のようになります。

ノッチと呼ばれる真ん中の小さな刻みは駒を立てるときの目印となります。
駒の位置であるネック側のフチから195mmの位置に合わせます。
上の丸は駒の幅である42mmに合わせます。また下の丸の位置はパフリングの内側から8mmくらいの位置に合わせます。

ドリルで穴をあけて、糸鋸で切り抜いた後、細く仕上げた特製のナイフで少しずつ削って形を整えていきます。
工程についてはわかりやすく次のタイトルにまとめましたのでご確認ください。

f孔を切る手順説明

テンプレートは塩ビ板でできています。金属のばね板や厚紙などでも十分作成することが可能です。注意するべきことは表板のアーチにあてて使用するためよく曲がる素材の方がいいということです。

糸鋸で切り抜く際は線をはみ出ない様に注意!でもあまりおおざっぱに切りすぎるとあとの作業が大変になります。

ナイフはとても良く切れるものを使用しましょう!写真はダマスカス鋼っぽい素材のナイフです😅 刃を薄く、先端をとがらせます

バスバーの取り付け

完成の写真はまさかの取り忘れ😱 またバスバーの作業を行うときに撮ります🙏

バスバーは内部の魂柱とは逆側に取り付けられます。裏側の曲線にぴったり合わせてつける場合もありますが、通常は外側に向かって少しずつ浮いているような状態に仕上げ接着によってバスバーが表板を内側からアーチを押し上げるように工夫します。

これは駒の圧力(振動)に対してそれに対抗させて振動をうまく伝えて強度も保つという工夫なのです。
バスバーは一見単純な補強パーツだと思われるかもしれませんがその長さ・高さ・厚み・形状には大きな秘密があります。楽器のアーチや板の厚み、材質などに合わせて細かい調整が可能な奥の深いパーツです。

僕自身も研究中であり、詳しい話はここでは省略させていただきます。

最後に

裏板に続いて説明に専門的な部分が多いですが、僕も楽器製作を一年かけて学んだ身としては文で描き切るのは難しいものがあります。個別で今後記事を出していきたいと思っているので、もしよければ読んでいただけると嬉しいです。

もしここどうなっているのと思う部分がありましたらお気軽にお問合せいただければと思います。僕の技術はバイオリン修理や木工の基礎からきているものです。特に秘密のニス配合ですとか、門外不出の技みたいなのはありませんので、修理や製作に関することならば基本的にすべてお答えいたします。

木工職人をならば説明を聞いても真似できない技術を鍛えていきたいとおもいます!🤩

お読みいただきありがとうございました

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