【バイオリン修理日記】4/4Violin ”Joannes Keffer, Goysern 1792 label”
こんにちわ下川バイオリン工房です。
日々の修理の中から、特に記憶に残っているものを日記として記したいと思います。
修理内容に関しては簡単な解説をしています。フルサイズのバイオリンの全体修理・セットアップ
今回の楽器はJoannes Keffer, Goysern 1792。オーストリアのGoisern & Ischlで1760-1810の間に仕事をされていた職人のラベルが貼られた楽器です。(鑑定書などはないため本物かは不明です。)
表板が複数個所バキッと割れてしまっており、ネック外れやボタンの割れ、裏板の穴など様々な問題が起こっている楽器でした。
目次
修理前の状態
表板の割れがもっと大きな修理項目となります。完全に割れて離れてしまっています。
写真はありませんがこの割れのとなりにもう一か所、F孔を挟んでネック側にもう一か所、さらに反対のF孔付近にもう一か所の計四カ所の割れがあります。
裏板のC字らへんに写真のような小さな穴が開いています。これは楽器を美術品として部屋に飾るためにあけたネジの穴だそうです。
ボタンはネックが外れた際にちぎれてしまっています(写真は仮接着をした後のものです)
表板割れ修理について
分離してしまっているためテープで仮留めします。
アーチの変形具合を確認しておきます。割れてから長い期間が経っている場合、うまく合わさらずに矯正が必要になる場合がありますが、今回は簡単にできそうです😅
接着するための”クランプ”(挟む器具)をひっかける木材を裏側に接着していきます。なるべくぎりぎりに付けた方が力はかかりやすいですが、割れの状態にもよります。ばらばらの角度についていますが、割れ部分の方向に対して垂直になるように計算されています。
薄いのこぎりでカットして木片を分離します。割れにニカワを流し込み、くさびを挟んでクランプで慎重に接着します。(段差ができない様に注意します)
接着面をまたぐ様に”スタッズ”と呼ばれる補強の木片を接着します。
割れの部分にニスを流し、段差や溝を埋めて補修します。接着前に水やせっけん、重曹などを用いて汚れを取り除いていますが、木がなくなってしまった部分や乾燥で痩せてしまった部分、どうしても木にしみ込んだ汚れは黒い線となって残ります。
※割れ接着修理の詳細は以下のリンクをご覧ください!
裏板の穴埋め
穴を埋める方法はいろいろありますが、今回は”スルーパッチ”という技法を用います。
まずは表側の穴をなるべく広げずに穴のフチがペラペラになるくらいまで裏側を彫り込みます。
その後かんなの削りカスのような薄い木片を裏側に貼り付けていきます。
クランプで締めたときに破損しない様に表側の型を取って土台としましょう。100均で購入できる”おゆまるくん”(プラスチック粘土)が最高に使いやすくて経済的です。
あとは薄い木をニカワに浸して、張り付けて圧着をひたすら繰り返してミルフィーユ状に重ねていきます。
木の繊維があるので、パテで埋めるよりもはるかに丈夫です。また修理後のニスの馴染もよく目立ちにくいです。
ボタン割れ修理
ボタンをニカワやボンド、瞬間接着剤などでくっつけます。(接着面がぼろぼろだったり、合わなかったりするのでニカワにこだわる必要はないと考えています)
補強の板を接着する分を削りこみます。
ボタンは意外と薄いためノミを当てたときに変形しないように表側の型を取って支えとします。今回は”モデリングコンパウンド”と呼ばれるお湯で柔らかくなる樹脂を使用しています。
接着溝の横幅はピッタリにしましょう(斜めにしてくさびのように補強板を入れるとキレイに接着できます)
深さはボタンの厚みの半分ぐらいでしょうか。
その他の修理
ネックブロックの接着および横板の調整などを行いました。
横板が曲がった状態で接着されており、楽器全体に無理な力がかかっていたので矯正をします。
その際に外したブロックを再接着します。
あたらしいブロックに交換してもいいです。(その方がいい場合が大半です)
ネックを入れなおしてニスを補修し、駒を立てます。
表板はネックを入れる前にクリーニングをしておきます。松脂を溶かす溶剤を使ってもいいですが、お湯+石鹸で取れます。
最後に
完成後の写真を撮っていないという自分でも衝撃的なミスをしてしまいました。
次回アップできる時には気を付けたいです。
いつもこんなに本格的な修理ばかりしているわけではありません。簡単な毛替えやクリーニング、弦交換のみでもぜひお気軽にご相談ください。
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