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バイオリンの継ネック修理を行いました【写真付きで工程を説明したいとおもいます🙌】



こんにちわ!下川バイオリン工房です。熱い日が続いていますが皆さんいかがお過ごしでしょうか💦

今回は先日行った継ネック修理についてお話します。以前投稿しました記事『バイオリンの継ネック【ネックグラフト】ってどんな修理?必要な場合と方法について』をまだ読んだことがない方はそちらも参考程度に見ていただけると幸いです🙇 👇👇👇



 

前回は演奏をされる皆さんが修理をされる際の注意点などについて解説しましたが、今回は技術目線でのお話も出来たらと思います😊

修理作業の注意点と細かいポイント、さらに演奏者目線での修理依頼する際に注意することなどについてお話します。

説明は非常に細かいですが、画像だけ見ても何となく雰囲気がわかるようにしてあります(笑)気になるところがあったらちらっと読んでみていただけると嬉しいです!

目次

ネックグラフトを行う理由

ネックグラフト(継ネック)とはネックのスクロール及びペグボックスからなる先っちょの部分を残し本体につながる根元までの木をまるまる新しい木材に変えてしまう修理のことを言います。※写真のピンクに塗りつぶされた部分

継ぐというのは日本の伝統木工の中で木口面同士を向かい合わせて接合する技法のことを指します。

継ネックが必要となる場合は主に①ネックが破損してしまった場合や②ネックの形状・太さ・長さを修正する場合などがあります。
詳しくは記事上部のリンクより過去の記事を読んでいただけると幸いです。

ネックグラフトの技法について【作業の注意点、演奏者との間で確認するべきこと】

ネックの切断

胴付きの手ノコギリで切れ目を入れていきます。縦と横に切れ目を入れます。
写真4枚目の赤線のように外側からはL字に新しい木が見えるように仕上がります。

縦にのこぎりを入れる際は写真1・2枚目のように斜めに入れます。深く入れすぎないように注意しましょう。またペグボックスのそこに向かって幅が狭くなるように(内側に入っていくように)切ります。
【写真2枚目の赤線】 仕上がりのラインは奥への削りこみの最低ラインはEペグ穴とGペグ穴の中間。そこから最大でEペグ穴に半分かかるくらいまでがよいでしょう。※すでに継ネックしてある楽器を修正する場合や横壁が極端に薄かったり形が特殊だったり、ヒビなどがあるといった場合にはこれに限りません。
【写真2枚目の青線】 仕上がりラインより手前で切りましょう。側面の壁はノミで削るのも容易なため、必要以上にギリギリを攻める必要がありません。

さらに横方向に切り込みを入れます。
写真4枚目をみてください。ペグボックス内に青線で記したのは内側の様子です。赤線のように外側から切れ込みを入れると緑線の部分が絶対に残ってしまいます。
この部分はへらなどで割ることになるため、横に切れ込みを入れるときは多少浅めにしておきましょう(へら割の際にボックスが変な方向に割れるのが怖いです😭)

切断後の写真はショッキングなのでモザイクをかけています …(ぶれただけです😅)

ペグボックス側の接着面を整える

まずペグ穴の部分にブッシング(穴埋め)を行っています。
これを行わずに継ネックすることは可能ではあります。ただし、接着後に全く同じ位置に穴をあけ直すのは至難の業であるとともに接着面の平面を確保するのがやりにくいため、メリットが全く分かりません。

技術的なアドバイスですが、接着の際にニカワを塗るとブッシング部分だけが膨らんで新しい材料を押してしまうので目止めを念入りに行うか、わずかにへこませておきましょう。

ボックス内は三面が完璧な平面であることが理想です。継ネックの強度とあとでニスを塗った時にきれいに見えるかはここで決まります😊

●ボックス内側の削り具合について

【写真1枚目】側面を斜めに削る際に鋭角に削るのが理想です。鈍角に新しい木を接着するようにすると接着面が小さすぎて弦の張力に耐えられません。
では大きく奥まで削っちゃえばいいのではと思うかもしれませんが削る際の技術的な難しさと接着のしづらさ、さらにオリジナルの楽器を大幅に削ってしまうことを良しとはしません。
ある程度広く確保できていれば強度は十分なので取れる限りの最大で作業していきましょう。

【写真2枚目】削る位置によっては内壁の内、新しい木が占める部分が極端に少なることがあります。(青い部分)
厚みが1mmなどとなってしまうとそれはもう無いに等しいです。接着面が広くとれていても木材自体の強度が弱すぎて弦の張力に耐えられません。

【写真3枚目】ナットの部分の幅は製作した段階で決まってしまうので継ネックでしか修正することが出来ません。
修正方法は二つ ①古いペグボックスをやや多めに深くカットして新しい木の部分が広く外に出るようにし、ナットの幅を広めに削り直す。
        ②継ネック材を仕込む際に用意した接着面よりも大きめにすることで内側から横に押し広げてナットの幅を確保する。
ナットの幅を広くするのはどんなやり方をしても可能です。ここではそうした場合にオリジナルとの差を少なくして違和感をなくすための方法を説明しています。①見た目に影響する。②広げすぎて割れないように注意 などありますが多く行われる方法ではあります。

ここでちょっと一休み

小難しい話ばかりになってしまいました😅
玄関に置いているハイビスカスが咲きました!と言っても朝に咲いて夜にはしぼんでしまいます。

夏という感じでお勧めです。熱帯地域の花ですが秋まで開花をみられます。

継ネック材(新しい木材)の削り作業

行うことは非常に単純です。先に削ったボックスに合わせて三面をカンナで削るだけです。
平面をキレイに!かつ角度がぴったりと合って隙間ないように合わせていきましょう。

但しただ削って合わせればいいわけではありません。ポイントは3つです。
①縦角度 ②横方向の向き ③指板接着面の傾き

詳細は以下につづきます。

●ネックを仕込む際の注意点

写真のようにクランプを使って縦横方向から圧力をかけて接着を行うのだが、二つの材料を削って合わせる際の注意点について説明したいと思います。

まず一つ目
画像の3枚目・・・縦方向への角度について、ペグボックスから指板接着面へは1~1.5mほどの高さの段差をつけておきます。これがあると後々指板交換の際にボックスを触る心配なく接着面を削ることが出来ます。また多少の角度も調整可能になります。
この段差は合わせの際にぴったりにする必要はなく接着後に削っても良いでしょう。だからといって縦方向の角度が極端にいい加減ではなりません。(最終的なネックの厚みを考慮しましょう)

二つ目
画像の4枚目・・・横方向の向き。これも極端にどちらかに偏っていると指板を張ったときに足らなくなると目も当てられません😭 サイドに木を多く残して保険をかけてもいいですが、ある程度合わせておいた方が後々作業しやすいです。 方法としてはグリッドなどが入った透明な下敷きで中心線を合わせる方法や指板を作って仮接着し、横にスケールなどを当てて左右の均等を見る方法があります。

三つ目
画像の5枚目・・・指板接着面(つまり指板)がスクロールに対してE線側、G線側に傾いていないかをチェックします。これは単に平らな金属板などを置いて目視で大丈夫です。

ネックの成型作業

削る箇所は以下の4カ所です。
①ペグボックスの内側 ②ペグボックスの外側及びネックにつながるカーブ(通称”アゴ”) ③ネックの付け根のカーブ(通称”クビ”) ④ボタン

今回ボタンについては”エボニークラウン”という修理技法を使っていますがこれについては別の記事で解説します。

①ペグボックスの内側・・・壁の厚みはある程度厚く仕上げるのが良いです。不自然に膨らんでいるのはどうかと思いますが、オリジナルよりも確実に強度を出したいため若干厚くしましょう。上から見たときに同じ厚さになっていても底に近づくにつれて厚くしたりもできます。
ナットに乗っかっている弦は演奏するときに各弦を押さえやすくしたい点からある程度の感覚で弦のみぞを作りたいです。大体16~16.5mmほどでしょうか。
ですのでボックス内側の幅はある程度広げないと弦が壁に当たってしまいます。当たらないギリギリかつ強度を保つのが難しいかもしれません😅

②ペグボックスの外側及びネックにつながるカーブ(通称”アゴ”)・・・カーブの形状についてはオリジナルの形の影響もあるのであまり自由にはできません。えぐりすぎず垂直すぎずというのが大事です。見た目も大事ですが演奏性を考えて作ります。なるべく全体が丸くつながるようにしましょう。あまり痩せさせてしまうと安定感を失います。

③ネックの付け根のカーブ(通称”クビ”)・・・この部分は自分で一から形を作ることになるので腕の見せ所です(笑)
ボタンからネックまで自然につながるカーブをナイフで削り作ります。立体的なため最初は非常に難しいです。全体をよく見てまずは横から見たカーブを仕上げて残った部分(角になっているところ)を削って丸くするというのを繰り返します。
かならず手で触って形状をたしかめながら進めましょう!手をスライドしたり握ったり回したりして違和感なくスムーズに動かせる形状が理想です。🤔

④ボタン・・・新作を作るときと同様に私は寸法を決めています。横幅22mmで縦幅が裏板のフチから12.5mmです。
この寸法を守って丸いボタンを作ると必ず同じ形になります。コンパスでフチから半円を書きまん丸なボタンを作っても大丈夫です。

お客様自身でネックの形状に関してご要望をお伝えください。

ネックの形状は演奏のしやすさに大幅に影響があります。
継ネックの場合古いネックは消え去り、まったく新しいところからネックを作りだすことになるためどうしてもオリジナルと全く同じ形状にはならないことがあります。
お客様とのすり合わせがない場合には職人の理想とするネックを作ることになりますが、やはり実際に演奏される方とは感覚や手の大きさ・形が違うため違和感が生まれる原因となり得ます。
出来ればお客様と職人とで最終確認を一緒に行えればと思います。

確認のポイントは次の3点です。
①ネックの厚み ②ネックの形状 ③首の深さ

①厚みの基準となる数値はナット側が19mm、ネックエンド側が21mmでポジションが上がるにつれて太くなります。
継ネックでは基本的に指板も新しくするために必ずネックは太くなる傾向にありますのでここは要チェックです。もとのネックの横幅が非常に細かったり、厚みが無かったりした場合、さらに演奏者の方の手がそこまでおおきくない場合は太くなることで物理的にできない手の形や抑えにくいポジションが生まれる原因となります。

②日本の楽器によくみられる特徴としてやや三角気味な形状のネックがあります。これは外国の方に比べて日本人は手が小さく指が短い傾向にあるためです。
ネックはまず半円に近い状態に仕上げられます。実際に握ってみながら削りこんでいき、理想の形に近づけましょう。

③首の部分は第5ポジション以降の演奏性に影響します。ハイポジションを弾く場合に親指が当たる位置であるためオリジナルと著しく大きさが違うとこれを基準にポジションを弾くときの感覚が変わってきます。

この調整を行った後にニスを塗っていくため何度も工房に訪ねていただくことになり手間はかかりますが、やはり大事なことですので職人に任せきらずにご自身で楽器を完成させていただきたいと思います😊

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