オールドバイオリンのネックの根元についている黒いやつは装飾ではないのです🤔【エボニークラウンについて】
こんにちわ!下川バイオリン工房です。
突然ですが、皆さんはこのようなオールドの楽器のネックの付け根部分に黒くて丸いパーツがついているのを見たことはありませんか?
材料はなんなのか?目的は?高級で古い楽器にしかついていない?新作楽器にはつけない?のかなど謎の多いパーツであります。
今回はこの”エボニークラウン”についてお話したいと思います。
目次
- ○ エボニークラウンって何?
- ○ エボニークラウンって何のためにつけてる?
- ○ エボニークラウン取り付け工程について
- ・位置の決定
- ・テンプレートによる罫書き線作成と削り作業
- ・ボタン左右ずれの修正について
- ・黒檀を張り合わせる。
- ○ 最後に
エボニークラウンって何?
”エボニークラウン”とはエボニー(黒檀)+クラウン(王冠)で直訳すると『黒檀の冠』という意味になります。
ネックの付け根の裏板が出っ張った部分のことを”ボタン”といいます。この部分を削って加工し、黒檀を丸く削ったパーツを張り付けることで完成します。
仕上がりの状態がまるでボタンが冠をかぶったように見えることからエボニークラウンと呼ぶのだと勝手に想像していますが歴史的なことについてはわかりません🙇
後述しますが、象嵌細工によって木の皮が張り付けられていたり、漆などによって塗装されているわけではありません。
また、エボニーではなくメープルなどを使って同様の加工がされている場合もあります。
エボニークラウンって何のためにつけてる?
エボニークラウンをつける主の目的は修理です。
堅い黒檀のクラウンによってボタン自体の強度を上げるとともにネックのヒール(底)が接着する面積を広げます(ネックの接着強度を高めるため)
黒檀を使用する理由が強度的なものですが、美術品としてのバイオリンの美観を考えてという部分も多少あると考えています。
前回記事を書きました”継ネック”の修理などを行った場合にはネックを新しく削り直すことが可能となるため、エボニークラウンをセットで行い、ボタンを理想とされるサイズまで拡張します。
新しくつくる楽器でも高級感を出すためにわざと取り付ける場合やオールドイミテーション(古い楽器のコピー)を作る際にオリジナルをまねて最初から取り付ける場合があります。
このような時には修理ではなく装飾としての意味合いが強いといえます。
エボニークラウン取り付け工程について
位置の決定
ボタンの形状は楽器によってさまざまです。
オリジナルの幅や長さなどを考慮してどのような丸の形にするのか、どれくらい削るのか、エボニークラウンの最終的な形や大きさはどのようになるのかを考えていきます。
また、楽器の中心線(裏板を左右で合わせたハギ線 もしくは 実際に測った楽器の中心)からボタンが大きくずれていることがあります。
その場合には修正を考える必要がある場合やそのままでも問題ないときもあります。ネックの形状とも相談する必要があります。
テンプレートによる罫書き線作成と削り作業
テンプレートを使用してある程度目安となる線をボタンに書きます。
この形が絶対ではないので削る際にはバランスを見ながら調整して大丈夫です。
削る際には裏板のフチに食い込むような形で切れ込みを入れておきます。その理由としては①後々ネックとの形状を合わせやすい②クラウンがハガレにくくズレにくい③見た目がきれいなどが考えられます。
ナイフややすりを使って丁寧に加工していきます。切れ込み部分は年輪が同方向に走っているためあまり力を入れると食い込みすぎてしまうので注意です。
また、丸みにはこだわった方がいいです。何となく丸ければいいやと思っていると後で黒檀を削り合わせる際に隙間になります。
ボタン左右ずれの修正について
写真のように中心線からズレすぎて片側が足りなくなることがまれにあります。
その場合には余った方の木をカットして逆側に貼り付けます。
杢模様も揃えられますし、木肌の色が揃うのでニスを塗った際にきれいに仕上がります。
黒檀を張り合わせる。
黒檀は木口の向きをボタンと揃えます。
ボタンが大体4mmくらいの厚みだと思うのでそれより少し厚く切り出した黒檀で丸みを合わせていきます。
先ほど使用したテンプレートを使用して線を書いてから目でみて実際にはめ込みながら感覚で合わせます。
黒檀の硬さや加工しずらさもありこの作業が一番難しいと言えます。
画像3枚目は楽器が変わってしまってすみませんがこのようにネックと一緒に丸く削ります。
画像4枚目のように横から見たときのきれいさも大事にしながら厚みを落としていきます。
最後に角になっている部分を面取りし、磨いて完成です。
ニスを塗ることで馴染んでいきます。メープルとのコントラストが美しいです。
最後に
単にボタンを装飾してみたいだけであるならば顔料を使用して模様を描いたり縁取りしたりするのがいいと思っています😊
以前に金でクラウンのように縁どられたものを見たことがありますが美しかったです。
行ったことはないですが、材質は黒檀でなくても良いのでツゲやローズウッド、フェルナンブコなどで行ったらどうなのか見てみたいと思っています。
黒檀ですがボタンすべてが真っ黒になっているものを見たことがあります。見た目は悪くないですが、内部の状態や接着強度については想像するのが怖いです。😅