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ブロックの交換修理について(ネックブロック)【バイオリン|チェロ】

みなさんこんにちわ!下川バイオリン工房です😊

こちらの記事ではバイオリン内部にて表板・裏板・横板・ネックすべてを接着し、バイオリン響胴部分の強度と気密性を決めるパーツ”ブロック”についてのお話です。

交換方法や交換が必要となる状況などについてご説明いたします。”ブロック”自体がどのようなものかについては過去の記事を参照してください🙇

バイオリン製作について②【内型作製とブロック組み立て編https://shimokawa-violin.tokyo/2020/12/05/makingmoldblock/



ブロックの中でも特に重要となるネックブロック(トップブロック)の交換方法を例にお話しします!

目次

ブロック交換が必要となる場合について

ブロック交換はブロックに劣化や破損が見られる場合に強度不足を考えて行う修理です。
ブロックの劣化や破損については以下のような場合が考えられます。☟☟☟

①乾燥による割れ
②ネックによる圧力でのブロック外れ
③虫食いによって強度が下がったことによる割れや外れ
④楽器の製作精度による故障 ←これに関しては様々なパターンがあるためこの記事では取り扱いません。

ブロックが内部で割れていたりするとブロックの接着がはがれて内部に落ちてしまったり、それに伴って接着されているネックが外れてしまうなどの問題が発生します。(画像の二枚目、三枚目です)
強度が下がっていると修理でネックを外す際に衝撃で割れたりすることもあります。(画像の一枚目、虫食いによって内部がボロボロになっています。)

ブロック交換を行わないと

割れてしまったブロックを接着して再使用することは不可能ではありません。しかし、一度割れてしまったブロックはその部分が極端にもろく、また圧力がかかると割れてしまう恐れがあります。特にエンドブロック、トップブロックは弦によって引っ張られているため常時力がかかっているためです。

新しく木を足して補強したようなブロックもまれに見受けられますが、手間と費用を考えればまるまる交換した方がはるかに良いです。

ブロック交換の手順について

接着面の調整

今回はチェロのブロック交換を参考にご説明します。(大きさが違うだけでバイオリンも全く同じ作業です)

①古いブロックを取り外します・・・丁寧に行う場合は内側よりブロックの底から少し上の部分を鋸で切っておきます。これを行わずにブロックを除去しても良いですが裏板が薄かったり、少しも脆くなっているとブロックと一緒に割れたりするので注意が必要です。
ノミで少しずつ削っても良いですし、ナタや厚めのヘラで繊維に沿って割っていくのも良い方法です。

②横板や裏板の接着面を作る・・・残った木は水をつけて”ニカワ”をふやかしたり、”スクレーパー”やノミなどで削りとったりします。

③横板の位置について・・・ブロックが外れた横板はプラプラの状態になり、開いたり閉じたりがある程度自由にできる状態になります。適当にブロックを接着すると表板と横板が合わなくなって閉じることが出来ない事態に陥ってしまいます。
写真ではブロックが外れる前にテープで横板をつないでいます。また接着する前に表板を乗せてあっているか確かめます。

ブロックの作製

ブロックの作製についてです。

①接着面の調整について・・・横板と接する面はヤスリで滑らかなカーブに仕上げます。『ブロックの側面はきれいな曲面であり、底面と天面は直角で真っ平であるのだ』と考えるのはあくまでも理想の場合です。古い楽器では表板や裏板・横板が歪んでいる場合が大半です。ゆがみに合わせなくてはいけないのか、もしくはきれいなブロックに接着する過程で矯正することができるのか。そこらへんの判断によっては少しいびつなブロックを作る場合も当然あります。

②目止めについて・・・接着剤が内部にしみ込んでしまったりするのを防ぐために目止めという作業を行います。ブロック交換においてはとても重要な作業でありかならず行われます。詳細は次のタイトルをご覧ください😊

目止めについて

ブロックは樹林に対してこのように切り出します。表板に使用される”スプルース”をはじめ木の内部には根っこから水分を吸い上げて葉っぱへと送るための”道管”(針葉樹では仮道管)と呼ばれる管状の細胞があります。 ※画像の1枚目

細い管の中を水分が毛細管現象などによってストローのように吸い上げられてしまいます。
そのため、表板とブロックの間にたっぷりとニカワを塗っても接着する際には道管内部にニカワ水が吸い込まれて、接着部分にはほとんど残りません。手で引っ張っただけで簡単に取れてしまうような弱い接着になってしまいます。これでは弦の張力には耐えれません ※画像の2、3枚目

あらかじめニカワ水をたっぷりと接着面(木口)に塗りこんで吸わせておきます。この作業を目止めと言います。これを行うことで吸い込み切れないニカワが接着面に残るのです。 ※画像4枚目

ブロック接着

特段説明することはありません。
側面と底面がぴったりとくっつくように注意してください。横板側には形に合うように当て型(カウンターパーツ)を用意する必要があります。

天面の目止め

天面の高さ合わせ

目止めしたニカワが乾いたら鉋(かんな)で天面を削って高さを横板と同じにします。

表板の裏側とぴったりと面が合っている状態にしないとネックの負担に耐えられないため表側から隙間なくくっついているか確認します。
表板の木が剥がすときに欠損している場合や”ライニング”などがはがれてついていたりすると表板が浮いてしまってくっつかない場合があります。改めて接着面全体を見直しましょう。必要に応じて表板にはパテ埋めや木の板を張る”パッチ修理”を行う必要があります。

内側が出っ張りすぎている場合もあります。エンドピンの穴から中をのぞいてみましょう🤤 (光っているのはホームセンターで売っているテープライトという商品です)

完成

箱閉じをして完了です。
このままネック入れ作業に移行します。

この記事に登場した専門用語について

画像は上から①~⑦です。

①ニカワ
接着剤です。牛や鹿の皮から煮出して精製したゼラチン成分です。

②ブロック
バイオリン響胴の箱としての強度を保ち表板・裏板・横板の接着部分となるパーツ

③スクレーパー
金属の板のヘリに返りをつけることで木材をひっかいて削るための道具
塗膜剥がしようのスクレーパーとは用途が異なる

④目止め
膠が接着の際に道管にしみ込んでしまわない様にあらかじめ塗っておくこと

⑤スプルース
表板に使用されるマツ科トウヒ属の常緑針葉樹の総称。北半球の冷帯に広く分布する。材を建材やパルプに用いる。繊維が素直で軽く強度があることから楽器としてはバイオリンをはじめギターやピアノの響板として用いられる。その中の一種、ドイツトウヒはクリスマスツリーに代用される。

⑥ライニング
横板の補強と表・裏板との接着面を広げるために横板に取り付けられる木の板

⑦パッチ修理といい。木をノミなどで彫り込み、それにぴったり合うように新しい木の板を接着する修理(掘った溝に木がぴったりと埋まっているということ)
割れやへこみなどを補修するために行われる。

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